1989年の天安門事件を象徴する「タンクマン(戦車男)」のシーンが含まれた映像を誤って転載した中国の愛国系インフルエンサーの中国SNSウェイボー(微博)アカウントが、永久凍結されたことがわかった。
問題となったのは、かつて「上帝之鷹」の名で知られ、現在は「忠貞不渝艾吉奧」と名乗っていた影響力の大きいインフルエンサーである。
彼は7月31日、日本・東京で中国人男性2人が襲撃されたとするニュース映像(セルフメディア制作とみられる)を転載。その中に一瞬だけ挿入されていた「タンクマン」のシーンに気づかず、そのまま投稿してしまった。
この1カットが中国当局の禁忌に触れたことで、アカウントは即座に削除され、ページには「ここには何もありません」と表示されるだけとなった。皮肉にもこの投稿は、ナショナリズムを利用して再生数や支持を集めようとした「愛国演出」の一環として拡散されたものだった。
(「タンクマン(戦車男)」のシーンが含まれていた問題の映像)
実は近年、日本のメディアやネットクリエイターの間では、海外からの無断転載や中国メディアによる盗用を防ぐため、動画内にあえて「天安門事件」など中国で禁止されているシーンを「防犯コード」として挿入する手法が広がっている。こうした仕掛けは、ゲーム画面や日本国内の飲食店の装飾などにも応用され、小粉紅(愛国過激派)による嫌がらせ対策としても機能している。

「忠貞不渝艾吉奧」は、中国共産党体制寄りの「ポジティブ発信(正能量)」で知られた代表的な愛国系インフルエンサーで、2018年には「中国青年好網民」にも選ばれていた。政権賛美や異論者の通報で200万人超のフォロワーを獲得し、広告収入や支援で利益を得ていたが、今回の「誤爆」で自らが通報される立場に転落した。
事件は中国国内でも大きな注目を集め、中国のSNSでは「殉職」「自爆」といった皮肉や、「悪の報い」とする冷ややかな投稿が相次いだ。中には「8月の始まりにふさわしい朗報だ」と祝杯をあげる者まで現れた。
愛国を装って名を上げた者が、たった1秒の「禁忌」で完全抹消される――この一件は、体制迎合型インフルエンサーの脆さを示す象徴だ。忠誠すら盾にはならず、「愛国」を叫ぶ者でさえ、次に粛清されるのは自分かもしれない。そんな不安定な時代が、中国のネット空間では今も続いている。


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