激変する中国 怒りの最中に現れた「別の矛先」

「江油事件」と「楊蘭蘭」 ネットが指摘する「世論操作」の構図

2025/08/16 更新: 2025/08/16

8月上旬、中国・四川省江油市で14歳少女への集団暴行(7月下旬)をきっかけに数千人規模の抗議が発生し、武装警察が暴力的に鎮圧。現地では流血の事態となった。厳しい情報封鎖が敷かれる中、市民の怒りは現場からネット空間へと広がり続けている。

そのさなか、突如ネットを席巻したのが豪州在住の華人女性・楊蘭蘭(よう・らんらん、23歳)だった。楊は高級車を運転中に対向車と衝突し、相手を重傷にさせながら自身は無傷。事故後、警察の酒気帯び検査を拒否してその場で逮捕され、のちに保釈された。このニュースは直ちに豪州の主要メディアで大きく報じられ、彼女の身元や家族背景への関心が一気に高まった。

 

事故現場の様子(映像よりスクリーンショット)

 

報道によると、楊は海の見える高級マンションに住み、複数の高級車を乗り回し、高級ブランドを身にまとい、プロのボディガードを伴う生活を送っていた。保釈時には300万円以上するシャネルの上着を着用しており、そのボディガードは中国共産党(中共)の最高権力中枢「中南海(北京)」を警護する精鋭部隊出身の許正陽とされる人物だった。こうした豪奢な暮らしぶりはSNSで瞬く間に拡散された。

しかし、それほどの財力を持ちながら、その経歴は完全な「空白」だった。SNSアカウントや企業・不動産の登記記録、商業活動の痕跡は一切確認できず、メディアのカメラに対しては条件反射のように顔を隠す姿も目撃されている。

 

楊蘭蘭の資料写真(映像よりスクリーンショット)

 

米サウスカロライナ大学の謝田(しゃ・でん)教授は「ここまで徹底して身元が秘匿されているのは、中共最上層、正国級クラスの人物の関係者でなければあり得ない」と指摘。

中国SNSでも楊の名前はトレンド入りし、「中共の特権階級の出身ではないか」との憶測が広がった。やがて8月8日には、北京の水害義援金呼びかけや新華社の倹約生活論評のコメント欄が「楊蘭蘭が寄付すれば足りる」などの皮肉で埋め尽くされ、同様の書き込みが殺到するまでに至った。

 

8月8日、北京市が懐柔区と密雲区の水害に対する寄付を呼びかけたところ、コメント欄は「楊蘭蘭はいくら寄付した?」といった書き込みで埋め尽くされた(スクリーンショット)

 

もし彼女が本当に「中共の特権階級」であれば、本来は当局に守られるはずの立場であるにもかかわらず、今回は逆に大衆の前にさらされ、話題の渦中に置かれている。

江油事件で高まっていた関心が突然「楊蘭蘭」へと移ったこの急激な変化に、多くのネットユーザーは「世論をそらす典型的な手口だ」と警戒を強めている。

 

8月8日、新華社の時事評論欄のコメント欄が「楊蘭蘭」関連の書き込みで埋め尽くされた様子(動画スクリーンショットを合成)

 

中共はこれまでも抗議や不満が高まるたびに別のスキャンダルや話題を前面に出し、関心を逸らしてきた。楊蘭蘭報道の過熱と江油事件報道の沈静化が重なった今回、偶然か意図的か──その疑念はむしろ強まっている。

 



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李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
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