中国では、AIによる音声生成技術を悪用し、有名選手になりすまして商品を売る詐欺が相次いでいる。確認されているだけでも、飛び込み競技の五輪金メダリスト・全紅嬋(ぜん・こうせん)選手や、卓球の孫穎莎(そん・えいさ)選手、王楚欽(おう・そきん)選手の声が利用された。
問題の偽アカウントは、中国版TikTok「抖音(ドウイン)」に複数の動画を投稿。偽の全紅嬋選手が呼びかける動画には、次のような言葉があった――
「みなさんこんにちは、私はあなたたちの“嬋宝(チャンバオ/全紅嬋選手の愛称)”です。今日はちょっとお願いがあります。お母さんを助けて、家の暮らしを少しでも良くしたいと思って、実家の地鶏卵をファンのみなさんに味わっていただきたいんです……」
コメント欄には本人を信じ込んだファンの書き込みが相次ぎ、注文は殺到。「いいね!」は1万を超え、販売件数は4万件以上に達し、被害者は少なくとも1万人に上ったとみられる。

全紅嬋選手(18歳)は広東省の農村部出身。14歳で五輪金メダルを獲得し、さらにオリンピック史上最年少で3個の金メダルを手にした実績を持つ。飾らない人柄から人気を集め、かつてはメダル獲得後に「お金をたくさん稼いで母の病気を治療したい」と語ったこともあり、家族思いの経歴が広く知られている。こうした背景が共感を呼び、詐欺グループにとって「地鶏卵販売」という設定は絶好の口実となった。
さらに、孫穎莎選手や王楚欽選手の声を生成して使った偽動画も投稿されていた。「全紅嬋さんの家の地鶏卵を代わりに宣伝している」「嬋妹(全紅嬋)さんから広めてほしいと頼まれた」と語る内容で、あたかも仲間の選手たちが彼女を支援しているかのように装っていた。複数の動画が連携することで「有名選手がこぞって宣伝している」という構図が作られ、全紅嬋さんが本当に地鶏卵を売っているかのような信ぴょう性を巧妙に演出していた。

全紅嬋選手の家族は今年4月の時点で「彼女は一切(家族の代わりに)農産物の宣伝をしていない」と公に否定していた。しかしAIによる模倣は極めて精巧で、多くのファンが欺かれた。
専門家によれば、AI技術はわずか十数秒の音声データで個人の声を完全に複製できる。このため著名人だけでなく一般人も被害を受ける恐れがあり、音声の盗用や悪用が急増する中で、人々は「耳にする声さえ信じられない社会」に直面しつつある。
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