日本郵便に軽貨物車使用停止処分 地方への影響深刻 安全保障にも懸念

2025/09/03 更新: 2025/09/03

運転手の健康状態や飲酒の有無を確認する「法定点呼」が行われていなかった問題で、国土交通省は9月3日、日本郵便に対し、軽貨物車を使った貨物運送事業での法令違反を理由に、約100の郵便局に車両使用停止処分案を通知した。日本郵便には弁明の機会が与えられ、10月1日にも正式な処分が下される見通しだ。

日本郵便が2025年4月23日に公表した自社調査によると、全国3188局のうち2391局(75%)で点呼が不適切、65局で状況不明だった。国交省は全国の郵便局を対象に立入検査を進めているが、全局の検査完了には時間を要する見通しだ。

処分は貨物自動車運送事業法に基づき、「日車」(車両数×停止日数)で算定。点呼未実施には最大100日車、記録改ざんには60日車が科される。対象車両は局内の半数まで(1台のみの場合を除く)。正式な処分は10月に決定される予定で、最終的に約2千局、約3万2千台の軽貨物車が影響を受ける可能性がある。

国民の不安と不満

ネット上では「安全管理徹底は理解できるが、物流を止めれば国民生活に打撃を与える」との批判が相次ぐ。

「問題は点呼なのだから、ドライバーや運行管理者を増やして体制を強化すべきだ」「雇用促進こそ本質的解決」といった意見も目立ち、人手不足対策の欠如に不満が広がっている。

外国人労働者への依存への不安や、「結局困るのは利用者」といった不信感も強く、処分の妥当性や国交省の対応姿勢を疑問視する声が根強い。

外部委託の限界とコスト負担

日本郵便は「点呼体制の再構築とICT活用」を掲げ、千田哲也社長が「信頼回復に全力を尽くす」と表明する。しかし、組織文化の変革や外部委託の拡大には困難が伴う。

6月にトラック約2500台の運送許可が取り消された後、同社は子会社やヤマト運輸・佐川急便などへ委託を拡大し、軽貨物で補完してきた。今回の軽貨物停止でさらなる委託拡大が不可避だが、業界全体がドライバー不足に直面する中、委託先の確保は難しい。

委託費は1台あたり月100〜150万円規模。数千台単位では年間数百億円の負担増となり、2024年3月期に686億円の営業赤字を計上した日本郵便の経営をさらに圧迫する。結果として運賃値上げやサービス縮小の可能性が懸念される。

地方への影響 ユニバーサルサービスの危機

郵便は全国一律で提供されるユニバーサルサービスだ。特に地方では軽貨物車が配達の主力であり、停止はゆうパックや選挙公報の遅延につながる恐れがある。

過疎地域では委託先が乏しく、代替となるバイク(約8万3千台保有)では荷物量に限界があり、年末年始など繁忙期や選挙時の需要には応えきれない。地方住民にとって郵便は生活必需品や行政情報の生命線であり、サービス低下は地域経済や生活に深刻な影響を及ぼす。

安全保障上の懸念

日本郵便の物流網は、選挙公報や緊急物資の配送など、国家機能の維持に直結している。軽貨物車の停止と外部委託拡大は、機密性の高い郵便物の管理や配送の信頼性を損なうリスクがある。また、外部委託拡大には 個人情報や機密情報の管理リスクが伴う。委託先のドライバーや協力会社が増えるほど、情報管理体制の統一や監督は難しくなる。物流網の脆弱化は、経済だけでなく安全保障の基盤を揺るがしかねない。

結び

日本郵便は3日、一部報道にあった貨物軽自動車運送事業の行政処分について、弁明通知を受け取ったことは事実と発表した。

今回の処分は、法令遵守の徹底を促す一方で、郵便という社会インフラを弱体化させる矛盾を孕んでいる。物流の安全確保と国民生活の維持、そして経済安全保障のバランスをどう取るか。国交省と日本郵便には重い課題が突きつけられている。

清川茜
エポックタイムズ記者。経済、金融と社会問題について執筆している。大学では日本語と経営学を専攻。
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