米下院報告書 中国国防研究へ流用された数十億ドルの米研究資金

2025/09/07 更新: 2025/09/07

米国下院の中国特別委員会は9月5日、調査報告書を発表した。この報告書は、過去10年にわたり、中国共産党(中共)が米中の大学や研究機関間の学術協力を通じて、米国連邦資金数十億ドルを間接的に中共の国防関連の研究に流用してきた事実を明らかにしたものである。

この80ページに及ぶ報告書は、アメリカ国防総省の研究資金の流れに焦点を当てている。報告書によれば、2023年6月から2025年6月までの間に、国防総省が資金を提供した研究論文は1400本を超える。そのうち約800本が中共の国防関連研究や工業基盤と直接結びついており、総額25億ドル(約3677億円)を超える国防総省予算が割り当てられていた。

国防目的の資金は、高速飛行技術、半導体、人工知能、先端材料、次世代推進システムなどの分野の研究支援に活用された。

米中における大学の軍事研究協力に関しては、多くのプロジェクトが機密用途に直結していた。連邦法は国外機関との研究協力を禁止していないが、報告書は、協力先の中に米政府が安全保障上の懸念からブラックリストまたは制限リストに掲載した中国機関が多数存在すると指摘した。多くの資金提供プロジェクトは明確な軍事的用途を持っていたという。

具体的な例としては、ワシントン州カーネギー科学研究所のある地球物理学専門家が国防総省の研究を担う一方で、中国科学院と合肥物質科学研究院でも役職を兼任していた。この専門家の研究分野は高エネルギー材料、窒素、高圧物理であり、核兵器開発に直結する領域であることから、中共政府より功績を評価され表彰されている。

同研究所は「当該研究は公開された非機密の基礎研究であり、米国の法律を完全に遵守している」と説明している。

また米国海軍研究室(ONR)、米国陸軍研究室(ARO)、米航空宇宙局(NASA)が資金を提供した共同プロジェクトに、アリゾナ州立大学、テキサス大学、上海交通大学、北京航空航天大学が参加した。このプロジェクトは不確実な環境下での高リスク意思決定の研究を目的とし、電子戦やサイバー防衛への直接的な応用が考えられる。なかでも北京航空航天大学は中共軍部に属し、航空宇宙分野で重要な役割を担っている。

さらに、米国空軍の科学研究部門(AFOSR)が資金を拠出したナノ光学素子の研究には、ニューヨーク市立大学、中国の華中科技大学、中山大学、武漢理工大学、中国運載ロケット技術研究院(CALT)が参加している。CALTは中共最大のミサイル・ロケット開発拠点であり、高速飛行ミサイルや再利用型ロケットの研究・生産を担っている。

国防総省の管理不備が明らかとなった

委員会議長ジョン・ムーレナール氏と前下院教育・労働委員会議長ヴァージニア・フォックス氏は、2024年9月から1年間にわたり調査を指揮した。

調査により、以下のような政策的な欠陥も判明した。

国防総省研究・工学部門はリスク管理や契約の実質的な見直しを行っていない。例えば、中国側の人材獲得プログラムや国防指定研究所のみを1286制限リストに記載しており、政府・民間部門が報告したその他のリスク組織を見逃している。

国防総省は1260Hリスト(国家安全保障上の脅威と指定される)に記載された機関との基礎研究の協力も禁止しておらず、リストの効果を弱め、研究の安全性確保を損ねている。

支出後の適合性確認や監督も十分に行われておらず、リスク緩和策についても十分に機能していない。

一部国防総省の職員は「研究が非機密かつ十分に管理されていない場合は、公開すべきである」との認識を持っていた。

報告書は、米国の大学と中共軍関連機関との協力停止を求める

報告書は10項目を超える提言を盛り込み、国防総省に対し、ブラックリストや中国国防関連・工業基盤に属する機関との全般的な研究協力の禁止を求めた。

調査担当者は、全ての中国との学術協力や研究協力を否定するのではなく、中共の軍事機関および研究・工業基盤との協力のみを排除する必要があると強調している。

報告書は「米国民の税金で行われる研究を、人権侵害や中国の大規模監視システムを担う機関と共同で進める理由はない」と指摘している。さらに「アメリカの研究成果を外国の敵対勢力から守る対策を取らなければ、アメリカの技術優位性は揺らぎ、国防力が危機に陥り続ける」と強調している。

教育省副長官ニコラス・ケント氏は、調査結果がアメリカの大学における国際関係の透明性向上の必要性を示しているとした上で、政府全体で敵対的外国勢力の影響を防ぐ対策の重要性を改めて強調した。

また「連邦資金を使った研究プロジェクトが外国勢力の浸透を受けやすい実態を、本報告書が一層明確にした」と述べた。

林燕