ハッカー組織「Black Moon」が中国とロシアの軍事協力に関する機密契約書を流出させ、ロシアによる中国共産党(中共)の台湾攻撃準備支援の実態が明らかになった。
Black Moonは、中共による台湾攻撃の準備を支援するため、ロシアが空挺部隊向けの武器装備や指揮自動化システムを提供する文書2件を入手した。これにより中露間の軍事協力の一端が明らかになったものの、両国間には引き続き溝も存在している。
中露の政治・軍事協力は、一般に認識されている範囲を大きく上回っている。Black Moonが公開した文書によれば、ロシアは中共による台湾侵攻に向けた準備支援を行っており、その規模や関与の度合いは一般的な予想を超えている。組織が入手した2件のロシア側軍事支援関連文書のうち、1件目は今年7月末に入手、その後SNS「X」で公開された。さらに8月5日にはドイツの『BILD』ウェブサイトで大きく報じられ、国際的な注目を集めている。
流出した中露の機密軍事契約 その内容と背景
この文書は、2024年4月にロシアの国防輸出株式会社の中共軍に空挺兵装備を提供する契約内容に関するものである。ロシア側の契約責任者は同社副総経理のラドキン氏である。同社はロシア唯一の国家軍事装備輸出業者として、2000年にプーチン大統領の命令で設立された。中国側は企業ではなく、中央軍事委員会装備発展部技術協力局長の余朝波を団長とする代表団であった。
ロシアが提供する装備は、空中給油機、1種の戦略輸送機、2種の空挺装甲車、2S25型125ミリ自走対戦車砲(2009年時点のロシア軍配備は24両に限られ、ロシア国外での使用例はない)指揮観測車、無平台降下傘システムなど多岐にわたる。
これらは民間転用が不可能な、純粋な軍事用武器システムであり、空挺部隊やその装備の輸送を主目的としている。契約には、全ての軍事物資をロシアが船便で上海港、または空輸で指定空港に搬送する旨が明記されている。
ロシアは中共の空挺部隊支援を通じ、台湾攻撃準備にも深く関与している状況が明らかになった。
『BILD』はこの文書の機密性の高さから、内容の真偽を全面的に検証することは困難であるとしつつ、ドイツ安全保障当局高官が真正な文書と認めていると報道した。
公開された文書の1ページ目の写真からも、信頼性は高いと判断できる。文書は中国語とロシア語の両国語で作成されており、精緻な偽造が困難と思われる点や、偽造動機が見当たらない点も特徴である。
Black Moonは過去にも、ロシア製精密誘導爆弾「FAB-500」のスライドレールフレーム組立手順書や、イランによる非ムスリム国家向け指令、5月14日に公表した中国の自爆型ドローンの詳細を公開してきた。これらはいずれも偶然入手した情報で、組織的な系統だった収集活動ではないのが特徴だ。以前の情報漏洩についても一定程度信頼できる内容である。
2件目の文書は、Black Moonが7月22日にXで公開した別の資料群である。これはロシア国防輸出会社と中国電子科技国際有限公司が締結した総額3490万ドル規模の契約であり、中共軍向け「空挺指揮自動化システム(MECH 208)」の開発が目的である。契約では中国電科国際が中央軍事委員会の代表となっており、署名日は2021年4月26日と、今回公開された武器契約より3年早い。
『BILD』は、中共とロシアの台湾攻撃協力は2017年にさかのぼると推定すると伝えている。これは7月22日公開文書の内容に基づくが、必ずしも中露の直接協力を意味するものではない。一方、中共が台湾侵攻準備を着実に強化してきた事実を示すものとみられる。今回公開された2件の機密文書は、ロシアが中共の空挺部隊を装備・指揮システム両面で支援しており、実際に台湾攻撃準備が進められている可能性を示している。
「Black Moon」による中露軍事協力に関する暴露は氷山の一角
Black Moonは2025年4月からX(旧Twitter)上で活動を始めた新しいハッカー組織である。若いハッカーらが主体となり、ロシア、中国、イラン、北朝鮮、アフリカ諸国の一部など、権威主義体制をターゲットに活動している。同組織は、地政学や軍事動向に関する情報公開を主な目標として掲げている。
今回の2件の機密契約公開により、中国側はロシアへの信頼に揺らぎが生じ得る状況である。2件の文書では中国側担当部局が異なる一方、ロシア側はどちらも同一の企業であり、ハッカーがロシア国防輸出会社の内部ネットワークに侵入した可能性が高いとみられる。これにより中国は、ロシアの軍事防御・情報セキュリティ体制の信頼性に疑念を抱くと予想する。
さらに、文書公開は欧米諸国による対中露制裁や軍事防衛措置強化の契機ともなり得る。西側情報機関は独自の内部評価と検証手段を有しており、今後の国際動向に影響を与えると見られる。
今回明らかになった中露の軍事協力範囲は、現時点でも氷山の一角であると考えられる。契約書には「中露軍事技術協力混合委員会第26回会議合意事項に基づき第三回の交渉が行われた」と記載されており、少なくとも26回以上の高官協議が行われていることが分かる。契約締結はこれだけに限らず、ロシアが過去3年戦争状態にあることも背景に、中共側からの追加的な要求も継続的に増えているとみられる。
一般に、この種の軍事協力は双方向に行われる傾向がある。ロシアが中共に一連の軍事装備を供給できる一方で、中共側もロシアへの供給内容が軍民両用製品にとどまらない可能性が高いと言える。
台湾攻撃に関する軍事協力 2021年4月に開始
現在確認されている台湾攻撃に関する軍事協力は、最も早いもので2021年4月に始まったものであり、これはロシアがウクライナに侵攻する前年に当たる。一般的に、2022年のロシアによる侵攻は、北京冬季オリンピックでプーチン大統領と習近平党首が発表した共同声明を引き金とするものと広く認識されている。この声明では、両国の協力は「止まることなく、禁止される分野もない」と定義され、習近平は「中露協力には上限がない」と述べた。
「上限のない協力」の背後には、中露間でまだ公表されていない秘密協定が存在する可能性が高い。双方は道義的のみならず軍事的にも、それぞれのウクライナおよび台湾に対する主権・領土要求を支持することで合意していると考えられる。王毅国務委員は、中共がロシアのウクライナ戦争における敗北を受け入れることはできないと明言している。
世界はすでに中露が外交面で互いに支え合う姿を目にしている。ロシアは中共の台湾統一に対して政治的支援を行う一方、中共はロシアのウクライナ侵攻を非難することを頑なに拒んできた。西側諸国の情報機関は、中共がロシアの軍需産業を支援していることを確認しており、二つのハッカー集団が入手した機密文書は、ロシアが中共の台湾攻撃準備に関して具体的な軍事装備の支援を行っていることを示している。
互いに警戒し合う中露
しかし中露は一枚岩ではなく、表面的な協力関係の裏には相互の警戒や妨害が存在する。ソ連崩壊後、中共は常にロシアから軍事装備や技術を獲得しようとしてきたが、ロシアは警戒を緩めることなく、最先端の技術や装備の提供を拒否し、自国が対中軍事技術で少なくとも15年優位性を維持しようとしてきた。他方、ウクライナは中国に多くの軍事技術と専門家を提供してきた。
中共が主導する上海協力機構(上合組織)の創設メンバーはすべて旧ソ連の中央アジア諸国で、現在も独立国家共同体(CIS)の加盟国である。これに対し中共はCISに属さない例外的存在である。CISの加盟国が地域安全組織を設立し、中国の参加を招待・承認すること自体は問題ではないが、中共が主導権を握ればロシアの影響圏に干渉する可能性が生じる。
ロシアの情報機関が作成した秘密文書によれば、ロシアは中共を敵視している。この文書は6月7日、ニューヨーク・タイムズによって公開された。文書はネット犯罪組織「Ares Leaks」によって流出し、西側の六つの情報機関がその信憑性を確認した。
文書は、おそらく2023年末~24年初頭、すなわちロシア・ウクライナ戦争勃発から約二年後に作成されたものとみられる。中露の協力関係がすでに「上限なし」と宣言されていたにもかかわらず、FSB(ロシア連邦保安庁)の文書は依然として中国を「敵」と明確に位置づけ、特に中国の情報機関の活動に対する警戒を呼びかけている。
文書は、中国をロシアにとって「多方面にわたる安全保障上の脅威」と断じている。
具体的には三点が挙げられている。第一に、中共はロシアの軍事技術を狙ったスパイ活動を展開し、とりわけロシアの科学者や国防関係者から機密情報を収集したり、科学者の引き抜きを試みたりしているとされる。第二に、中共はロシア極東地域における領土拡大を企図していると指摘している。第三に、FSBは中国の通信アプリケーションに対する監視を命じている。
反ソは一時的 反米は長期戦略
反ソは例外的に一時的な政策であったのに対し、反米は共産主義思想に基づく長期戦略である。アメリカはようやくこの点を理解し始めている。
中共建国以降に確立された反米政策は、共産主義思想を基盤とする長期的方針であった。これに対し1960年代に始まった反ソ政策は一時的な措置にすぎず、毛沢東個人の事情とも深く結びついていた。毛はソ連との間で共産主義運動の主導権を争ったほか、フルシチョフによるスターリン批判「反スターリン秘密報告」により自らも同じ運命をたどることを恐れていた。
現在の中露戦略的パートナーシップは「反米」を基盤としている。現行の国際秩序に抵抗し、それを破壊することが中国の長期的目標であり、改革開放は一時的な挿話にすぎず、便宜的対応であった。
アメリカの元大統領リチャード・ニクソンが提唱した「対ソ連包囲のために中国を利用する」戦略は、冷戦という特殊な状況下での一時的方策に過ぎなかった。本来は冷戦後に見直されるべき政策であった。しかしアメリカは約30年を経て、中国こそが最大の脅威であることをようやく認識するに至った。
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