中国 生きるために走る

中国 「飯も食えない」上海の配車ドライバー 切迫した日常続く

2025/10/07 更新: 2025/10/07

中国経済の失速は、人々の生活を容赦なく直撃している。

誰でも始めやすい仕事だからこそ、最後の砦とされてきた配車サービスやフードデリバリーの現場では、いま生き残りをかけた苦闘が続いている。

上海のドライバーたちが語る実態は、まさに「飯も食えない」という切迫した日常そのものだ。

夜の街でハンドルを握る

夜の上海。車のドアを閉めると、外の喧騒が遠のく。
運転席の男性・張(チャン)さんは、ため息をつきながら言った。
「この2年で、飯も食えない人が増えたんですよ」

彼は朝から晩まで車を走らせ、ようやく1日300元(約6千円)を稼ぐ。
燃料費と手数料を差し引けば、手元に残るのはわずか。
車内で眠り、目を覚ましたらまた走り出す。そんな日々が続いている。

こうした声は、現地の人気ブロガー「大V」たちが、車内や街頭で直接拾い上げたものだ。彼らの投稿が、今の上海の現実を映し出している。

 

イメージ画像、中国のハイヤー車内の様子(映像よりスクリーンショット)

 

配車チーム運営者の話

配車チームを運営する男性は、疲れた声でこう語った。
「去年までは、1台あたり月に4万円ほどの利益がありました。でも今は、それすら残らないんです」。かつて30台近い車を走らせていたが、燃料費と保険料の高騰で、昨年の旧正月にはたった1か月で400万円もの赤字を出したという。

男性は続けて次のように話した。
「それでも、地方で職を失った人たちが、働き口を求めて次々と上海へやって来るんです」。
ある日、事務所に現れた中年の男性は、土下座するようにして「どうか車を貸してください」と懇願した。
手元に残っていた6万円は宿代と食費で消え、帰りの切符も買えない。
「飯が食えない。お願いします」と泣きながら頭を下げる姿が、今も目に焼きついて離れない。

「誰も報じないけれど、こうした光景は上海の裏側で毎日起きているんです」と、配車チームの運営者は静かに言葉を結んだ。

 

糖尿病と共に走る

別の配車ドライバーは、朝から晩まで、毎日12時間以上ハンドルを握っている。
「走らなければ食べていけないんです」と彼はつぶやく。
ワクチン接種のあとに糖尿病を発症し、いまでは休憩のたびに車内で自分の腹にインスリンを注射している。
「もう贅沢なんて考えていない。ただ、生きたいだけですよ」と静かに笑ったが、その顔には疲労がにじんでいた。

 

イメージ画像、中国東部・浙江省杭州市を走る配車アプリ「滴滴出行(ディディチューシン)」の車両。2022年7月21日(STR/AFP via Getty Images)

 

栄光から夜の街へ

かつて全国大会を制した元バレボール選手も、今は夜の配車運転手として生計を立てている。
退役後はマクドナルドの店長、広告営業、起業と転職を重ねたが、どれも続かなかった。
「運転が好きだから」と始めたが、現実は厳しい。

配信アプリでライブをしながら、夜の上海を走る。「もうチャンピオンじゃない。ただの労働者です」と語る声に、自嘲と誇りが入り混じる。

 

静かに沈む街の片隅で

街の明かりはまぶしいのに、その光の下には多くの影がある。
車内で眠る男たち、弁当を食べる暇もなく走る人々。
経済成長の裏で、彼らの生活はすり減っていく。
上海の夜を照らす無数のライトの中に、汗と涙が混じっている。

「頑張って生きるしかない」と張さんは言った。
走っても走っても報われない街で、それでも彼らはハンドルを握り続ける。

ニュースには映らないが、都市の片隅で膝をつき、車内で眠り、必死に走る人々の姿こそが、中国における経済失速の真実に最も近い姿だ。

信頼を失った国のツケは、いま、最も弱い人々の肩にのしかかっている。

 

中国の配車アプリ「滴滴出行(ディディチューシン)」のスマートフォン画面(STR/AFP/Getty Images)
李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
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