台湾海峡情勢が「三つの好変化と一つの悪化」を背景に安定化。国際環境の変化や日本新政権、中共軍粛清などが与える影響を解説する。
インド太平洋戦略シンクタンクは最新の「台湾海峡情勢報告書」を公表した。執行長の矢板明夫氏は、過去1か月間に世界で四つの重要な変化が起き、全体として「三つの好ましい変化と一つの悪化」が見られたと指摘した。その結果、台湾海峡情勢を示す独自指標「温度指数」は0.5度低下し、36.9度となったという。シンクタンクは、国際環境は比較的台湾にとって有利に働いているが、台湾内部の政治情勢や社会の分断には引き続き注意が必要だと警告している。
矢板氏は、最近の国際情勢の変化として以下の四点を挙げた。
第一に、アメリカがイスラエルとハマスの停戦を仲介し、中東情勢が緩和に向かった点である。
ハマスが軍事的に大きな打撃を受けたことにより、アメリカは外交・軍事の焦点を再びインド太平洋地域へと移すことが可能となった。これは台湾海峡の安定化に寄与すると分析している。
第二に、中国共産党(中共)軍の上層部で異例の粛清が発生し、中央軍事委員会副主席の何衛東氏を含む9人の上将が汚職により罷免された。
このうち多くは福建沿岸部隊の出身であったという。今回の粛清は習近平の軍内での威信を揺るがし、中共の対台湾軍事指揮体制をも弱体化させた。短期的には、台湾への武力行使のリスクが低下し、台湾海峡の平和にとって好ましい変化であるとした。
第三に、台湾政治において懸念すべき動きが見られた点である。
国民党の主席選挙で、親中姿勢を鮮明にする鄭麗文氏が当選し、伝統的な主流派が勢力を失った。シンクタンクは、これにより中共による台湾への政治的浸透が強まる可能性を警告している。特に「対米疑念論」の宣伝が強まる懸念があるほか、鄭氏が北京を訪れ中共高官と会談し、一方的な約束を交わす事態となれば、国際社会における台湾への不信感を助長するおそれがあるとして、「台湾にとって好ましい展開ではない」との見方を示した。


第四に、日本政界の大きな転換である。保守派の高市早苗氏が日本初の女性首相に就任し、自民党は公明党との26年間にわたる連立を解消、維新の会と新たな協力関係を築いた。
今後、日本はアメリカとの軍事協力を強化し、台湾との交流もこれまで以上に進展する可能性が高い。こうした動きは、中共による台湾への武力侵攻を軍事・外交両面で困難にするものであり、台湾海峡の平和に寄与すると分析している。
同日、高市氏は首相就任後の記者会見で、「国と国民のために全力を尽くし、変化を恐れず果敢に前進する。そのためにこの内閣を立ち上げた」と決意を表明した。また「国家と国民のために結果を出し、強い日本を築くことを決してあきらめない。私はその決意を固めている」と述べ、力強い経済の構築と外交・安全保障面での国益保護に全力を尽くす姿勢を強調した。
さらに、外交方針として「自由で開かれたインド太平洋」を柱に据え、共通の価値観を持つ国々やグローバルサウス各国との連携を深化させる意向を示した。また、トランプ米大統領との早期会談を実現し、日米関係を新たな段階へ引き上げたいとの考えも明らかにした。
矢板氏は、「インド太平洋戦略シンクタンク設立から1年、台湾海峡情勢の温度指数が初めて37度を下回った。これは、国際情勢が台湾海峡の安定にとって有利に作用していることを示している」と述べた。ただし、台湾内部の政治的不安定さが中共の浸透を助長する要因になっていることにも言及し、引き続き警戒を怠るべきではないと強調した。
シンクタンクは今後も「世界と連携して台湾の声を発信する」ことを掲げ、「台日半導体同盟」など国際協力のさらなる推進を目指すとしている。

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