「野菜拾いツアー」がブーム 観光地の業者は苦境で悲鳴

2025/10/27 更新: 2025/10/27

今月初め、中国では合計8日間の休暇となった。全国各地の観光地には多くの人が押し寄せたが、今年は例年とは少し様子が異なる。旅行には出かけているものの、消費はほとんど増えていない。「必要以上の出費はしない」「無駄遣いは一切しない」という合言葉のもと、宿泊費を節約するために自前のテントを持ち込み、道路脇で一夜を明かす旅行者も現れている。観光業者からは「今年は本当に異常だ」という悲鳴が上がっている。

中にはお金を使わないどころか、旅をしながら屋台を出して収入を得る人も登場した。さらに、野菜を拾って持ち帰って冬のあいだ食べ続ける人もいるようだ。

中国のSNSでは、かつて観光地の宣伝といえば「どんな体験ができるか」「何が名物か」といった情報が主流であった。しかし現在は「どこで最も節約できるか」「無料で国内旅行を楽しむ方法」などの節約術の投稿が人気を集めている。

そして今、さらに極端なスタイルが話題になっている。それが「野菜拾い式旅行」だ。

最近、河北省のある夫婦が車で内モンゴル自治区を訪れ、農家が廃棄した野菜を拾う様子を撮影した動画が大きな注目を浴びた。2人は畑で農家が収穫せずに放置した野菜を拾い集め、1日でおよそ250キロを収穫したという。ジャガイモ、キャベツ、タマネギ、ニンジン、カボチャを車いっぱいに積み込む様子がネット上で話題となった。

妻の王さんはメディアの取材に対し「何年も前から同じ場所で拾っている。事前に許可をもらっており、農家の人からは『もう要らないから拾ってもらったほうが助かる』と言われている」と話していた。

拾いに訪れた人の中には「お金を使わないどころか、逆に得している気分になる」「拾っても拾っても終わらない」と語る人もいる。一方、ネット上では「信じられない。そんなに畑に残っているの?」といった驚きの声も上がった。「こうした『野菜拾い式旅行』のほうが、何千、何万元も使う旅行よりずっとリラックスできる」というコメントや「お金を使わずに楽しめるのが一番」という意見も広がっている。

一方で、こうした「節約旅行」が増えるにつれ、観光地の業者たちは苦境に立たされている。

「今年の商売は本当に厳しい」「異常な年だ」「景気が悪すぎる」と嘆く声が相次いでいる。

湖南省張家界市で民宿を経営するオーナーは「まさか、お客さんがキャンピングカーやテント持参で来るとは思わなかった」と肩を落としている。

また、湖北省武漢市の農産物市場の露店主も「例年なら連休の最初の3日間はかき入れ時なのに、今年は初日から客がほとんどいなかった。連休で観光客が増えて大もうけできると思っていたが、実際は節約旅行ばかりだった」と苦しい表情で語っている。

四川・重慶地域(川渝)でホテル加盟ビジネスを手掛ける業者も「多くの観光地で客足が大きく落ち込み、かつてのような長蛇の列や人混みは見られない。周辺ホテルの宿泊率は悲惨な状況で、昨年同期の60%に達すれば良い方だ」と話している。

中国のQ&Aサイト「知乎」には「急落する旅行業界 ネットに打ち負かされたもう一つの業種」という投稿も見られる。その中で旅行会社の社長は「年々商売が難しくなっている。今は複数の旅行会社の顧客をまとめて、ようやく一つのツアーが成立する状況だ」と明かしていた。

最近では、中国版インスタグラム「小紅書」でも節約旅行の投稿が注目を集めている。

成都から青海・甘粛へ車で旅した3人組は、テントや鍋、食器をすべて持参し、自作のガイド資格証を提示した。入場料の免除を受けられる場所ではしっかりと活用し、宿泊費もかからないよう工夫している。車をベッドに改造し、テントキャンプを組み合わせ、「風景を楽しみながら節約する旅」を実践している。

中国共産党(中共)の文化観光部が発表した「2024年第3四半期全国旅行社統計調査報告」によると、同時期の全国旅行会社による国内団体旅行者数は延べ3469万2200人で、前年同期比38%減少した。一方、国内旅行の「単体サービス(交通・宿泊・入場券など個別利用サービス)」件数は延べ2億5100万人に達し、前年同期比26.7%増加している。

つまり旅行者は、従来の「パッケージツアー」ではなく、交通・宿泊・入場券・ガイドサービスなどを個別に組み合わせ、自分のペースで旅を楽しむ傾向を強めているのだ。

ある旅行系ブロガーは10月22日の投稿で「経済的なプレッシャーの中で、消費の『節約志向』がより顕著になっている」と指摘している。あるオンライン旅行代理店(OTA)の調査では、回答者の62%が「旅行予算を削減した」と答え、経済型ホテルを選ぶ割合は45%に上っている。

さらに、高速鉄道旅行やキャンプなどの「節約旅行」が逆に人気を集めており、消費者がより理性的に判断していることの表れだと分析している。専門家は「旅行シーズンなのに盛り上がらない」という現象は、今後も続く可能性があると述べている。

また近年では、中国の若者たちの間で「旅をしながら屋台を出す」というスタイルも広がっている。観光地で販売活動を行いながら旅費を賄う若者が増えているのだ。

専門家はこう分析する。「この『野菜拾い式旅行』ブームは、若者の節約アイデアや生活の知恵を示すだけでなく、経済的なプレッシャーが強まる社会状況を映し出している」

「リベンジ旅行」ブームから「リベンジ節約」の時代へ。ホテル宿泊からテント持参へ。特産品購入から残りの野菜拾いへ、そして旅行しながらの販売活動へ。いまの旅行者たちは、自分たちのやり方で『旅行』という概念を再定義しているのだ」

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