欧州連合(EU)の外務・安全保障政策上級代表であるカヤ・カラス氏はこのほど、ウクライナ戦争において「ロシアの戦争を支える最大の後ろ盾は中国だ」と強く非難し、EUと中国の深い経済的な結びつきが、ロシアに対する制裁措置の発動や強化を制約しているとの認識を示した。
カラス氏は、NATOの集団防衛規定である第5条にならい、中国共産党(中共)による経済的な威圧に共同で対処する「経済版の第5条」にあたる枠組みをEU内に構築するよう呼びかけた。加盟国のいずれかが中共から経済的な圧力を受けた場合、他の加盟国が一体となって対応する仕組みを想定している。
ブルームバーグによると、EUの外交制作責任者かつ欧州委員会副委員長のカラス氏は、18日にブリュッセルで、もしEUが中共と対立するための代償を払う覚悟を持たなければ、中共はなお「あなたを傷つけることがある。それが問題だ」と述べた。さらに「その代償を払う覚悟がなければ、行動に移すのは難しい」と強調した。
これらの発言は、EUが中共に対し、ロシアによるウクライナ戦争をめぐる制裁逃れを支援しないよう圧力を強めている中で出されたもの。EUはすでに10月、複数の中国企業に対して制限措置を導入している。カラス氏は、もし中共の支援がなければ「この戦争はとうに終結していたはずだ」との見方を示した。
就任から1年あまりのカラス氏は、対中姿勢で一貫して強硬な立場を取っている。9月には、中共が実施した大規模な閲兵式を公然と批判し、中共政権のほか、ロシア、北朝鮮、イランなどの政権を、ルールに基づく国際秩序に直接挑戦している存在として名指しした。
カラス氏は、ヨーロッパが中共に向き合う際の弱点として、ヨーロッパが十分に団結しておらず、そのために「我々は十分真剣に対処していない」と指摘。
そのうえで、「経済分野における『第5条』にあたる同盟をつくることができれば、(中共が)ある加盟国に対してこの種の脅迫手段を用いた場合、他のすべての加盟国が立ち上がって『それは許されない』と示すことができる」と述べ、結束の強化を訴えた。
一方、ドイツのラース・クリングバイル財務相は、北京訪問を終えたばかりだが、経済対話の継続とは別に、EUに対し対中政策で足並みをそろえるよう求めている。
ドイツ政府は対中政策を見直す動きを進めており、連邦議会は対中貿易政策を再検討する専門家委員会を設置した。
また、同国のメルツ首相は先週、政府として通信インフラの安全保障を強化する方針を表明。5G移動通信システムのネットワークから中国のファーウェイ製部品を交換し、将来の6Gネットワークでも中国製部品を使用しないことを決定したという。関係当局者は「すべての供給業者に同じ基準を適用する。安全保障の問題だ」と説明している。
カラス氏はさらに、ロシアによる「国家テロリズム」を非難し、16日にポーランド東部の線路を損傷させた爆発事件について「極めて重大な破壊行為だ」と述べたうえで、こうした行為は「我々の社会に恐怖を広げること」を目的としていると警告した。
EUは19日、ヨーロッパ域内における部隊や軍事装備の調整を強化することを目的とした新たな防衛・軍事戦略を公表した。ヨーロッパとして防衛面での連携を一層進める狙いがある。
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