論評
2025年第3四半期、中国への海外直接投資は減少を続け、中国が抱える経済的課題と投資家の慎重姿勢の高まりがあらためて示された。
中国共産党(中共)国家外貨管理局によれば、この期間の外国直接投資(FDI)流入は85億ドルにとどまり、前期比で51%減、2022年第1四半期のピークと比べると92%減という大幅な落ち込みとなった。2025年初めには一時的な持ち直しがあったものの、トランプ政権が報復関税を発動すると、その動きはすぐに押し戻された。
一方で、対内投資が大幅に減るなか、14次五か年計画期間(2021〜2025年)を通じて中国からの対外直接投資は堅調だった。その結果、2021年と2022年には純流入となっていた中国の直接投資収支は、2023年以降、急速に純流出へと転じた。
こうした反転が続いていることは、国際資本が中国をどのように評価しているかが根本的に変わったことを示している。かつては「有望な投資先」とみなされた中国市場が、いまや「高リスクの環境」と受け止められるようになった。
主な要因は3つある。
今回の景気悪化は、中共にとって予想外だった可能性が高い。習近平政権下で進んだ3つの動きが、この急激な変化をもたらした。
第一に、2022年に新型コロナ変異株による感染が再拡大した際、中共が極端な「動的ゼロコロナ」政策を維持し続けたことがある。特に2022年4月の上海全域ロックダウンは中国経済の屋台骨を揺るがし、外資企業の事業運営を極めて難しくした。
第二に、中共が市場統制を強めたことで、外国企業のビジネス環境が急速に悪化した。中共国家安全部が「スパイ摘発」を呼びかけたり、外資企業や従業員への突然の立ち入り調査や拘束が相次いだほか、統制を強化する新法も施行された。こうした動きが積み重なり、外国投資家の間では懐疑や悲観が広がり、最終的には中国の政治的方向性への失望につながった。
第三に、2022年2月に始まったロシア・ウクライナ戦争が中共の国際的地位に深い影響を及ぼした。中共がロシアに寄り添う姿勢を見せたことで、西側諸国では中共とロシアの連携が強まるとの懸念が高まった。また、台湾海峡で中共が武力行使に動くのではないかという見方も世界的な関心事となった。こうした中共と西側の戦略的対立の激化が、国際資本の流れの方向と規模を変える結果となった。
この3つの要因のため、中共が2023年以降に打ち出した外資誘致策はほとんど効果を上げていない。外国資本の撤退と国内資本の海外移転は、中共には止めようのない流れになっている。
もはや「重要戦略的機遇期」ではない。
中共は現在、自国が直面する経済危機を明確に認識している。2026〜2030年の第15次五か年計画では、これまでの計画と比べて国内外情勢の評価を見直し、過去3つの五か年計画で繰り返し使われてきた「重要戦略的機遇期」という表現が姿を消した。
その背景には、米中の国力比較に対する現実的な見方がある。中共は、「東が台頭し、西が衰退する」というスローガンに象徴される、アメリカを早期に追い越すという構想が非現実的であると認識するようになった。
中国のGDPは2021年にアメリカの77%に達したが、その後低下し、2024年には64%まで落ち込んだ。2023年以降は「中国経済はすでにピークを過ぎた」との見方が世界的に広がっている。アメリカのバイデン前大統領は中国を「時限爆弾」と形容した。
さらに、2期目のトランプ政権による報復関税も中共の負担となっている。第トランプ政権 1期目の時には、米中が約1年にわたり対立と交渉を繰り返し、「第1段階」合意に至ったものの、中共はその多くを履行しなかった。
しかし今回は状況が異なる。トランプ氏は正式な合意を急がず、交渉を続けながら一時的な合意を段階的に延長する戦略を取っている。この方法によって中共を不確実性の中に置き続け、合意条件の履行状況を常に監視しながら、圧力を持続させることができる。
中共は、前回のように抜け道を探して合意を骨抜きにすることは、もはやできない。

ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。