ニュージーランドで、中国共産党(中共)を過激に支持する人物が、元地方議員を台湾独立支持者と決めつけ、「外国勢力の影響下にある」「公職に不適格だ」などと中傷したとして、約22万5千ニュージーランド・ドル(約2020万円)の賠償支払いを命じられた。
司法はこれを「責任ある言論とは言えない中傷の連続」と断じ、虚偽の政治的レッテル貼りを明確に違法と認定した。この一件は、在外中国人社会において、政治的な立場をめぐる対立や緊張が存在し、言論をめぐる摩擦が地域社会にまで及んでいる実態を映し出したものと言える。
裁判で争われたのは、被告が元市議を「台湾独立支持者」と決めつけた点であった。この点について法廷では、「評判に深刻な影響を与えかねない」との趣旨を指摘した。
ニュージーランド安全情報局(NZSIS)は、国外からの影響が国内の言論や活動に及ぶ事例について、「越境的弾圧」が現在、外国干渉の主要な形態の一つになっていると警告する。報告書では、中国、ロシア、イランなどを、議論や意思決定に影響を与えたり、技術や情報へのアクセスを得るため、隠密または欺瞞的な活動を行う可能性がある国として挙げている。
この事件の周辺では、警察のロゴを使用した「通知」を名乗る文書が出回ったほか、ジャーナリストが訴訟を起こされる事例もあった。また、当事者に対してオンライン上で嫌がらせを行い、第三者にもそれを促す動きがあった。
さらに、当該のジャーナリストは、中共のニュージーランドにおける影響力を調査したドキュメンタリーの制作に関与したことが明らかになっている。
在外中国人が多く居住し、中国系SNSが情報伝達の重要な手段となっている国は、ニュージーランドに限らない。台湾問題などをめぐる政治的な立場が、在外中国人社会において特に敏感なテーマであることは、同国の事例からもうかがえる。
一方で、ニュージーランドでは、情報機関が脅威について公表し、司法が名誉毀損の成否を厳格に判断し、警察が偽装行為に公式に対応するなど、制度と権限を通じて言論の自由を守ろうとする動きが見られた。
越境的な影響力の行使は、軍事力を用いずに、言論空間や社会的信頼に影響を与える点に特徴がある。標的は政治家や活動家だけでなく、記者や一般市民にまで及ぶ可能性を指摘し、関係機関は警鐘を鳴らしている。
ニュージーランドで起きた一連の出来事は、国家間の緊張や影響力の競合が、外交や安全保障の表舞台だけでなく、地域社会の内部にも及びつつある現実を示すものと言える。
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