中国では、歌うだけで当局が神経を尖らせる楽曲がある。ミュージカル「レ・ミゼラブル」を代表する、あの曲だ。その歌声が、上海の一流劇場で、しかも観客自身の声によって響き渡った。
12月13日、上海の大劇場で行われたミュージカル「レ・ミゼラブル」40周年記念コンサートの終演後、観客の一部が立ち上がり、「民衆の歌(Do you hear the people sing)」を合唱した。出演者による演出ではなく、客席から自然に広がった歌声だったとみられている。
この曲は、民衆が圧政に立ち向かい、自由を求めて声を上げる場面で歌われる楽曲で、映画版でもクライマックスを象徴する存在として知られている。一方、中国本土ではその内容が問題視され、過去には封禁の対象となってきた。

香港の民主化運動では象徴的な歌として繰り返し歌われ、2022年に各地で広がった白紙運動の際にも、中国各地で若者がこの曲を合唱した。当局が強く警戒してきた背景があるため、中国国内の公の場でこの歌が響くこと自体が、極めて異例と受け止められている。
この公演はこれまでにも行われてきたが、観客が終演後にこの曲を合唱し、それが話題になったのは今回が初めてとみられる。動画がネット上に広がると、「一人が歌い出し、思いが一気につながったのだろう」「この歌は香港では街頭で歌えば警察が出動するほど警戒されてきた。それが上海で響いたこと自体が異例だ」と、ただならぬ出来事だとする声も出ている。
劇場という公共の空間で、権力への抵抗を象徴する曲が、観客自身の声で歌われた。その歌声が意味するものを、誰も大きな声では語らない。それでも、中国社会の空気が静かに動いていることは、確かだ。
(上海の大劇場で上演されたミュージカル「レ・ミゼラブル」終演後、中国でタブー視されてきた歌を観客が合唱する様子)
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