地政学リスクに備える経産省「製造基盤強化レポート」中間取りまとめの要点

2026/04/16 更新: 2026/04/16

2026年4月、経済産業省は「地政学リスクを踏まえた製造基盤強化等に関する検討会」の中間取りまとめとして『製造基盤強化レポート』を発表した。本レポートは、大国間競争の時代への回帰や「経済の武器化」が進む中、日本の国力の源泉である「製造基盤」の再構築に向けた戦略を示したものである。以下にその要点を解説する。

1. 顕在化するサプライチェーンの脆弱性と各国の動向

近年、特定国に対する重要物資の過度な依存リスクが高まっている。中国による重要鉱物(ガリウム、黒鉛、アンチモンなど)の輸出管理強化や、鉄鋼・化学製品の過剰生産によるデフレ輸出、さらにはレガシー半導体の生産能力の中国への偏りなど、物資を巡る脆弱性が次々と顕在化している。

世界的に見ても、1990年代以降、中国が製造能力を急拡大させた一方で、G7諸国の製造能力は相対的に低下した。この状況に危機感を抱いた米国は、関税措置の適用や国防生産法(DPA:Defense Production Act)の権限拡大による国内生産の強化に乗り出している。EUも、域内製造業の活性化を目指す「産業加速化法(IAA:Industrial Accelerator Act)」を提案するなど、各国が国家主導で産業・技術基盤の強化を急いでいる。

2. 日本の製造基盤強化に向けた「4つの視点」

日本においても、製造基盤の喪失は優位性のある領域(製造装置や素材など)を失うことにつながりかねず、次世代製造・スマート製造への遅れを挽回するためにも、製造基盤強化は「待ったなし」の状況である。レポートでは、強化に向けた4つの視点と対応の方向性が示された。

(視点1)支援対象の拡大

これまでの「特定重要物資」の枠組みを広げ、半導体製造に用いられる汎用化学品のような「重要な基盤的物資」も支援対象に含める。また、特定のモノだけでなく、鋳造や鍛造といった製造基盤の強靱化を支える技術要素群(テクノロジー・チェーン)にも着目して支援を行う。さらに、設立が検討されている「総合的な経済安全保障シンクタンク」や「官民協議会」を活用し、リスク分析と対応力を強化する。

(視点2)サプライチェーンの上流から下流、循環までの一貫支援

従来のサプライチェーン支援に加え、再生プラスチックなどの「経済安全保障上重要な循環資源」を真正面から取り扱い、支援を行う。また、ヒューマノイドのモーター・センサーや量子コンピュータのレーザーなど、「将来技術を支える物資」の自律性確保にも先行して取り組む。さらに、調達源を多角化するための需要サイドへの支援や、海上輸送を含む物流の強靱化を図るとともに、地政学リスクに耐え得る形での新たな戦略的国際分業を推進する。

(視点3)「エコシステム」への支援

日本の製造業はデジタル化やAI実装(製造AX)の面で遅れをとっている課題がある。これを打開するため、「生成AI開発プログラム(GENIAC)」や、個々の工場を超えたデータ基盤となる「製造AX拠点構想」を推進する。同時に、理工・デジタル系の人材育成や、改訂された「技術流出対策ガイダンス」に基づく技術流出防止策の徹底を図り、中堅・中小企業(「100億宣言」企業など)を含むサプライチェーン全体の強靭化を目指す。

(視点4)「自助」「共助」「公助」のバランス

平時を前提とした経済合理性だけでなく、企業自らが地政学リスクを織り込んだ経営判断を行う「自助」が求められる。国は「経済安全保障経営ガイドライン」の普及や、コーポレートガバナンス・コード改訂を通じたガバナンス強化を後押しし、市場メカニズムを活用しながら企業の行動変容を促す方針である。

まとめ

日本の企業を取り巻く環境は、効率重視のグローバル化の時代から、地政学リスクを踏まえた対応が不可避な時代へと大きく転換している。国内の製造基盤は一度失われると回復が極めて困難であるため、官民が一体となり、投資とイノベーションを通じて強靭な製造能力を再構築していくことが急務である。

エポックタイムズの速報記者。東京を拠点に活動。政治、経済、社会を担当。
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