英国の前駐米大使ピーター・マンデルソン氏が、米国で死亡した性犯罪が疑われている富豪ジェフリー・エプスタイン氏をめぐるスキャンダルに巻き込まれ、昨年9月に解任された。しかし16日、マンデルソン氏が米国赴任前にそもそも安全保障審査を通過していなかったことが明らかになった。審査が通らなかった主因はエプスタイン問題ではなく、中国共産党との密接な関係にあったとされる。一連の報道は英国政界に衝撃をもたらしている。
中央通信社などの報道によると「常に安全保障を最優先する」と繰り返し強調してきたキア・スターマー首相は、対中政策の方向性を含め、世論のより厳しい目にさらされている。スターマー首相は20日、マンデルソン氏の任命に関わる安全保障審査の問題について議会で説明し、質疑に応じる予定だ。
また、スターマー首相によって迅速に更迭された前外務省常任次官のオリー・ロビンス氏も、21日に下院外交委員会でマンデルソン案件について説明することになっている。英国世論はロビンス氏を「トカゲの尻尾切り」の犠牲者と見る向きが多い。
マンデルソン氏は労働党の長老格である。最近、駐米大使就任前に中共幹部および中国系企業と深く関与し、商業的利益のために英国の国家安全保障を犠牲にしてでも中共側のためにロビー活動や広報支援を行っていたとする報道が相次いだ。
マンデルソン氏は2008年にEU通商担当委員を務めていた際、中国で開催された世界経済フォーラム(WEF)の会議に出席し、中国ブランドのヨーグルトを公の場で飲んでみせ、中国製品への強い信頼を示したとされる。当時、中国当局は三鹿「毒粉ミルク」問題により対外貿易の拡大に打撃を受けていた。
マンデルソン氏は2010年に政界を退いた後、戦略コンサルタント会社「グローバル・カウンセル(Global Counsel)」を共同設立したとされる。同社は中国に幅広い政財界の人脈を持ち、歴代の主要クライアントにはSNSプラットフォームのTikTokやファストファッション大手のSheinなどが名を連ねる。マンデルソン氏が会長を務めていた時期には、中共党首の習近平とも会談している。
非営利組織「英中透視(UKCT)」の調査によると、グローバル・カウンセルは半導体設計関連技術を英国から中国へ移転させる上で重要な役割を担った。
英国の半導体・ソフトウェア設計会社イマジネーション・テクノロジーズ(Imagination Technologies)は、グラフィックス処理・人工知能・クラウドコンピューティングなどの分野における世界的な知的財産(IP)の主要供給元で、歴代の主要顧客にはアップルなどが含まれる。同社は2017年に投資ファンドの「キャニオン・ブリッジ(Canyon Bridge)」に買収された。
UKCTの調査によると、キャニオン・ブリッジの資金の大部分は中国国有独資会社「中国国新(China Reform)」に由来し、その運営ネットワークは中共軍と国家安全機関に及び、軍需企業を含む戦略的技術分野への投資を主な目的としている。米国政府はキャニオン・ブリッジによる米国内の買収案件を、安全保障上のリスクを理由に阻止したことがある。
UKCTの調査では、マンデルソン氏が2019年に中国で、中国国新の当時の董事長・周渝波氏と会談し、同社との全面的な協力強化を図ろうとしていたことも明らかになっている。

2020年、英国がイマジネーション・テクノロジーズの買収案件の政治的背景と安全保障リスクの精査を強化し始めると、グローバル・カウンセルは中国側の代理として英国の利害関係者(英国当局を含む)の懸念を払拭しようとロビー活動を展開した。
同年以降、イマジネーション・テクノロジーズの中核的な知的財産資産が中国へと移転し始めた。その前段として、中国側はまず障害となっていた前CEO・ロン・ブラック氏を排除した。
ブラック氏はその後イマジネーション・テクノロジーズを訴え、中国当局による同社への干渉を外部に告発したことを理由に不当解雇されたと主張した。法廷はブラック氏の主張を支持し、同社に対してブラック氏への150万ポンドの賠償を命じた。
このブラック氏の労働争議に関する法廷文書によると、グローバル・カウンセルはキャニオン・ブリッジによるイマジネーション・テクノロジーズへの支配強化を支援したと指摘されている。キャニオン・ブリッジの背後にある中国国新は、同社の取締役会を掌握しようとしていた。
一方、グローバル・カウンセルの主要クライアントには、中国のバイオ医薬企業・無錫の薬明康徳(WuXi AppTec)も含まれていたことが報道で明らかになった。
薬明康徳は中共軍および情報・安全機関との関係を指摘されているほか、新疆ウイグル自治区における人権侵害への関与も問われている。2024年初頭、関連するネガティブ情報が国際的に広まる中、グローバル・カウンセルは薬明康徳との協力関係を迅速に構築し、同社の論争への対応や「地政学的リスクの緩和」の支援を始めた。
流出したグローバル・カウンセルの内部文書によると、マンデルソン氏が駐米大使に任命された翌年、米国でも業務を展開する薬明康徳がグローバル・カウンセルに支払ったサービス料は約60%増加した。
エプスタイン・スキャンダルへの関与により、昨年9月にマンデルソン氏が駐米大使を辞任を余儀なくされた後、グローバル・カウンセルは深刻な経営危機に陥り、株主は大きな損失を被った。しかしマンデルソン氏は、数度にわたる株式売却を通じて自身の手元に約160万ポンドを手にしている。
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