元国防相2人に死刑判決 軍内部の粛清 習近平の権威に揺らぎ

2026/05/08 更新: 2026/05/08

中国共産党(中共)元国務委員兼国防相だった李尚福と魏鳳和が、4月7日、いずれも執行猶予2年付きの死刑判決を受けた。両者はいずれも、習近平によって重用された人物とされる。

オーストラリア在住の中国問題専門家、袁紅冰氏は、両者が摘発された背景について、武力による台湾統一をめぐる本音や、習近平に忠誠を尽くさない動きがあったためだとの見方を示した。また、習近平による軍内部の相次ぐ失脚により、中国軍の指導体制は大きく損なわれ、習政権も弱体化していると指摘している。

中共軍事法院は5月7日、魏鳳和を収賄罪で、李尚福を収賄罪と贈賄罪で有罪とし、両者に執行猶予2年付きの死刑判決を言い渡したと発表した。2年後に刑が無期懲役に減刑された場合も、終身収監され、減刑や仮釈放は認められないという。

李尚福は、中共幹部の子弟、いわゆる「紅二代」とされる人物で、西昌衛星発射センター司令官、総装備部副部長、中央軍事委員会装備発展部長などを歴任した。2022年の中共第20回党大会後に中央軍事委員会委員となり、2023年3月には国務委員兼国防相に就任した。

一方、魏鳳和は、ロケット軍の前身である第二砲兵部隊の司令官や、ロケット軍司令官を務めた。2017年の第19回党大会後には、中央軍事委員会委員、国務委員兼国防相に就任した。

2023年8月31日、李尚福の失脚が正式に発表された。その1か月後には、前任の魏鳳和も調査対象になったことが明らかになった。2024年6月27日、新華社は、李尚福が「贈収賄の疑い」があり、魏鳳和は「収賄した疑い」があると報じた。また、両者について「信念が崩壊し、忠誠に背いた」と表現し、軍の建設や高級幹部のイメージに重大な損害を与えたとしている。

魏鳳和は、習近平の就任後に初めて上将へ昇進した人物で、習近平は魏鳳和一人のために昇進式を開いた。李尚福も、第20回党大会後に習近平が抜てきした国防相だった。こうした人物が相次いで摘発されたことで、その背景に注目が集まっている。

中共内部の情報提供者とつながりを持つ袁紅冰氏は、大紀元に対し、「この事件の背後には、習近平が直面している危機が隠されている」と述べた。

台湾海峡有事への本音が失脚の一因か

袁氏は、内部情報提供者の情報として、習近平が軍内部に構築した監視組織が、李尚福と魏鳳和の政治的忠誠心に問題があると判断したと説明した。

袁氏によれば、習近平は台湾海峡での戦争を通じて、共産党体制の影響力を拡大し、自らの長期統治の正当性を固めようとしているという。しかし、国防相を務めた魏鳳和と李尚福は、表向きには台湾に対して強硬な発言をしていたものの、内心では、台湾海峡で戦争を起こせば中共側が敗北する可能性が高いと見ていたという。

袁氏は、こうした見方は、もともと元国防大学政治委員の劉亜洲が最初に示したものだと述べた。劉亜洲は、習近平には台湾海峡での決定的な戦争を指揮する軍事能力がないと見ていたため、先に粛清されたという。

袁氏はさらに、「劉亜洲については、マフィア式に秘密裏に失踪させられたかのような状態が続いている。これは、習近平の劉亜洲に対する強い憎しみと、劉亜洲が軍内で持っていた影響力の大きさを示している」と語った。

魏鳳和は2022年、シンガポールで開かれたシャングリラ対話で、台湾問題について誰かが台湾を分裂させようとするなら、「われわれは戦争も辞さず、代償を惜しまず、最後まで戦う」と述べた。李尚福も2023年、同じくシンガポールで台湾問題について強硬な発言を行った。台湾を分裂させようとする勢力には「いかなる相手も恐れず、いかなる代償も惜しまない」と強調していた。

しかし袁氏によると、魏鳳和と李尚福は水面下で、党の正式な組織ルートを通さない活動を行っていたという。表向きには習近平に従う姿勢を見せながら、実際には台湾海峡での戦争が失敗した場合に、自分たちが事態を収拾し、局面を掌握するため、政治・経済の両面で準備を進めていたという。

袁氏は、「公開の場では、魏鳳和も李尚福も、台湾への武力行使を示唆する強硬発言を行った。しかし裏では、習近平が進める対台湾戦争戦略をまったく楽観視していなかった」と指摘した。

袁氏はまた、魏鳳和と李尚福の動きは軍内部にとどまらず、軍と党・政府部門の幹部の間にも広がっていたと明かした。李尚福は「紅二代」として、以前から鄧小平一族と深い関係があり、魏鳳和も江沢民一族と深いつながりを持っていたという。袁氏は、これこそが習近平が両者に重い刑を科した根本的な理由だと見ている。

重罰で権威回復を狙う習近平

トランプ米大統領が今月中旬に訪中するとされる中、中共は魏鳳和と李尚福の判決を公表した。袁氏は、習政権が米中首脳会談の前に両者への重い判決を示したのは、軍内部に大きな衝撃を与えるためだと分析している。

袁氏によれば、習近平は反習勢力とみなした人物に重罰を科すことで、党・政府・軍内部で揺らいでいる権威を立て直そうとしているという。

袁氏は、中共の刑罰の中で最も重いのは即時執行の死刑であり、次に重いのが執行猶予2年付きの死刑だと説明する。従来は、この刑を受けた場合、2年後に無期懲役へ減刑され、その後、一定期間を経れば減刑や仮釈放の可能性があった。しかし、その後制度が変更され、無期懲役に減刑された後も終身収監され、減刑や仮釈放が認められない形が導入された。これは事実上、死亡するまで収監される刑罰だという。

執行猶予2年付きの死刑を最初に受けたのは、習近平と以前から個人的な確執があった白恩培・元雲南省党委書記だった。

これまでの情報では、李尚福と魏鳳和は、ロケット軍や軍事企業幹部をめぐる大規模な汚職事件に関わっていたとされる。今回、両者は同時に粛清された。

袁氏は、これは李尚福と魏鳳和が同じグループに属していたことを意味すると指摘する。次に判決が発表される可能性があるグループとして、元中央軍事委員会副主席の何衛東と、元中央軍事委員会政治工作部主任の苗華を挙げた。さらに、今年失脚が発表された元中央軍事委員会副主席の張又侠と、元中央軍事委員会統合参謀部参謀長の劉振立の一派もあるとしている。

軍上層部が「壊滅状態」指導体制に打撃

中共第20回党大会で発足した中央軍事委員会は、当初7人のメンバーで構成されていた。しかし現在、残っているのは習近平と張升民の2人だけだ。

昨年の上将昇進式や今年の全人代期間中の公式映像を見る限り、現役の上将として確認できるのは、中央軍事委員会副主席で国防相の董軍、東部戦区司令官の楊志斌、中部戦区司令官の韓勝延のみだ。軍出身の中央委員のうち、上将級で解任されたり消息不明になったりした人物は17人に上る。

袁氏は以前、習近平が北京の政界で「上将斬り」というあだ名で呼ばれるようになったと明かした。これは、習近平が軍の上将を次々に粛清していることを指す表現だという。

袁氏は、現在の習近平は大きな権力を握っている一方で、周囲から孤立し、味方がおらず、側近にも背を向けられていると指摘した。相次ぐ粛清は、まさに破滅を前にした暴走だと言える。相次ぐ粛清は、政権末期の混乱を思わせるものだと指摘している。

袁氏は、「習近平が権力を独占できているのは、一連の秘密スパイ組織によって、軍を含む官僚全体を統制しているからだ」と述べた。

そのうえで、現在は習政権にとって最も脆弱な時期であり、中共軍にとっても極めて弱い時期だと分析した。

袁氏は、「中共軍はいまも世界最大規模の軍隊であることに変わりはない。しかし、その指導中枢は習近平自身によって徹底的に破壊された。これは、脳がまひした巨人のようなものだ」と述べた。

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