調査 中国共産党軍 米国AIから広範に「技術を盗む」

2026/08/02 更新: 2026/08/02

海外メディアが中国の学術論文と特許資料80件余りを調査した結果、中国共産党(中共)軍の研究者がOpenAIやAnthropicなど米国の先端人工知能(AI)モデルを利用し、ドローン、サイバー戦、情報分析、戦術判断に使用できる中国独自のAIシステムを訓練していることが分かった。

中共軍に関連する一部の研究では、モデルの出所を隠し、電子透かし(ウォーターマーク)を除去し、安全検知を回避する方法も検討されていた。

ベッセント米財務長官は先週、トランプ政権が、中国のAIモデルが「蒸留」によって米国の技術を盗んでいるかどうかを調査していると警告した。窃取行為への関与が確認されれば、米国には海外の事業体に制裁を科す権限があると強調した。

AIが戦場での指揮、目標識別、無人戦闘システムに次第に導入される中、モデル蒸留は、テクノロジー業界における知的財産権をめぐる問題から、米中間の軍事・国家安全保障競争における新たな焦点へと発展しつつある。

中国、米国モデルを「蒸留」し国内軍事システムを構築

ロイターが7月31日に発表した報道によると、中共軍と安全保障機関の研究者は、「モデル蒸留(Model Distillation)」技術を広く採用している。

これは、能力の高い「教師モデル(Teacher model)」が生成した出力データを利用し、規模が小さく、より専門的な機能を持つ「生徒モデル(Student model)」を訓練する手法である。新たなモデルに必要な計算資源は大幅に削減されるため、軍内部のネットワークやドローン、人工衛星などの戦術用ハードウェアに直接配備できる。

ロイターの調査には、ワシントンのシンクタンク、ジェームズタウン財団が整理した研究論文60件余りが含まれ、さらに中共軍と関係する約24件の事例を独自に確認した。

ジェームズタウン財団の研究員、張崑陽氏は、関連研究から、中国軍の科学者が西側モデルの推論過程を組織的に抽出し、監視、サイバー戦、戦術判断のためのツールへと転換していることが分かると指摘した。

張氏は「モデルに正しい答えを教えることと、その答えに至るまでの推論過程を教えることは別であり、後者ははるかに難しい」と分析した。

さらに、「これらの論文は、中国軍と関係する研究者が、西側モデルに備わる高価で特許性のある推論能力を、自らが管理し、現地に配備できる小型システムへ移そうとしていることを示している」と述べた。

幅広い用途 ドローン、軍用ソースコード、海上作戦を網羅

ロイターが挙げた事例によると、モデル蒸留は複数の軍事分野で広く利用されている。

情報活動とサイバー戦を担当する中共軍96941部隊は、昨年発表した論文で、OpenAIのGPT-3.5を利用して機密性の高い軍用ソースコードを処理する方法を記録していた。

研究者らは、第三者のモデルに機密情報を直接処理させることは適切ではないため、まずGPT-3.5を使ってプログラムコードの要約を生成し、その要約を利用して、軍内部のネットワーク上で独立して動作する中国独自のモデルを訓練したと説明した。

また、中国の国防科技大学は2024年の研究で、画像処理モデルを軽量化してドローンに配備し、通信が途絶した場合でも、リアルタイムの航法と目標選定を実行できるようにする方法を示した。

軍事科学院による別の研究でも、研究者が蒸留技術を利用し、ドローン、艦艇、無人潜水艇を含む海上作戦のシミュレーションで、目標識別システムを戦術用ハードウェア上で動作させることに成功したとしてる。

また兵器産業との深い関係を持つ中北大学は、AnthropicのClaude 3 Haikuを利用して訓練データを生成し、ソーシャルメディアの監視とコンテンツ審査を行うモデルを構築していた。

Anthropicはこれについて、中国では商業サービスを提供しておらず、規約違反を防ぐための検知システムを設けていると回答した。

同社は「蒸留されたモデルでは、元のシステムに備わっていた安全上の防護機能が失われ、機密性の高い能力が、元の開発企業が管理できないモデルへ移される可能性がある」と警告した。

現在までに、ホワイトハウス、米国防総省、中国外務省、中共軍、OpenAIはいずれも、ロイターのコメント要請に回答していない。

敵対的蒸留 隠蔽技術を開発し監視を回避

ジェームズタウン財団が7月30日に発表した報告書によると、中共側の一部の研究は通常の範囲を超え、モデルの能力を意図的に抽出し、技術の出所を隠し、利用規約に違反する「敵対的蒸留(Adversarial Distillation)」へと発展している。

報告書によると、中国科学技術大学の研究者は、蒸留攻撃における「異常な特徴(anomalous features)」を減らし、ツールの「隠密性(stealthiness)」を高めることで、検知システムを回避する研究を進めている。

同時に、中共軍サイバー空間部隊情報工程大学の関係研究者も、「教師モデル」の能力を維持しながら、モデルの「電子透かし(Watermarks)」を効果的に除去し、生徒モデルの出所を隠す方法を提示している。

また、中国陸軍工程大学の研究者も、モデルの安全機構を突破する方法、いわゆる「攻撃知識」を、小型で高速かつ継続的に攻撃を実行できるツールへ蒸留する方法を検討している。

これらの論文の多くは実験室段階またはシミュレーション用途のものであり、実戦に投入されているとは限らない。

しかし、ジェームズタウン財団は、中国の学術誌や軍事専門誌への掲載は、実際の研究より通常1~2年遅れるため、公開資料が示しているのは、中国側が現在保有する技術力の「下限」にすぎない可能性があると注意を促した。

ベッセント氏「技術窃取が確認されれば制裁」

中国のオープンウェイトモデルの性能が米国の先端製品に近づく中、米政府当局者とテクノロジー業界は、「モデル蒸留」が知的財産権と国家安全保障に及ぼす影響への懸念を強めている。

ベッセント米財務長官は7月21日、FOXビジネスのインタビューで、トランプ政権が、中国のAIモデルが米国の技術に由来するものかどうかを調査していると認めた。

ベッセント氏は「特に、海外のモデルが米国の優れた企業の成果を盗んでいることが判明すれば、われわれには、その窃取行為を理由に制裁を科す能力がある」と強調した。

さらに「多くの中国製モデルから、米国の大規模言語モデルの電子透かしを発見している。これは容認できない。今後数日または数週間以内に調査を開始する」と明らかにした。

産業界からの圧力も高まっている。Anthropicは先月、米上院に書簡を送り、アリババが同社に対し、これまでに「確認された中で最大規模の蒸留攻撃」を仕掛けたと非難した。

ロイターによると、米中両国は9月、AIのガバナンスと安全性をめぐる協議を行う見通しで、ベッセント氏が米国側を代表して協議に参加する。

商用AI、世界の軍事システムに深く組み込まれる

「モデル蒸留」をめぐる論争が高まる中、世界の軍事AI産業は爆発的な拡大期を迎えている。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、この分野の企業を、従来型の防衛請負企業、防衛テクノロジーの新興企業、大手テクノロジー企業、OpenAIやAnthropicなどの基盤モデル提供企業という4つに分類している(リンク)。

現在、従来型の大手軍需企業はAIを戦闘機やセンサーシステムに統合している。一方、パランティアやアンドゥリルなどの防衛テクノロジー企業は、AIを利用して衛星画像や情報を自動的に選別し、無人装備を単一の指揮ネットワークへ統合している。

米国防総省も今年、SpaceX、OpenAI、NVIDIA、マイクロソフトなど8社と契約を結び、関連技術を、機密情報を処理する秘密ネットワークに配備した。米軍を「AI優先」の戦闘部隊へ転換することを目指している。

急速に形成されつつあるこのシステムでは、現地で動作する軽量モデルが、ドローン、艦艇、人工衛星などの戦術装置に配備するための鍵とみなされている。

このため、最先端モデルが持つ高価で特許性のある「推論能力」は、各国の軍事機関が競って獲得しようとする戦略資源となっている。

専門家「蒸留は最先端AI開発の代わりにはならない」

専門家は同時に、蒸留技術が近道となる一方で、明確な限界も存在すると指摘している。

蒸留モデルが受け継げるのは「教師モデル」の特定の能力の一部に限られ、最先端システムが持つ幅広い知能を完全に複製することはできない。また、最先端AIをゼロから開発するために必要な高性能半導体、膨大なデータ、計算資源の代わりにもならない。

AIデータ企業Sapienの共同創業者、トレバー・コベルコ氏は、蒸留モデルの能力は常に元のモデルより劣ると指摘した。

同氏は「最も適切な理解は、特定の能力を、より低コストで現地管理が可能なシステムに移す技術にすぎず、最先端AIから独立することを実現するものではない、ということだ」と分析した。

責任編集:李天琦

陳霆
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