フィリピン国家歴史委員会(NHCP)は7月10日、中国の研究者がフィリピン北部のバタネス諸島に対する中国の主権を主張したことについて、歴史的、地理的根拠を示して反論する声明を発表した。
中国の研究者による主張は、古い記録を根拠に現在の領有権へ疑問を投げかけるもので、沖縄の帰属を不確定とする中国共産党側の「琉球地位未定論」と共通する論理構成がみられる。学術や文化活動を通じて歴史認識を広め、国際機関の記録へ反映させようとする情報戦への警戒が求められている。
中国研究者「バタネスは台湾の地理的延長」
6月30日に中国の済南大学で開かれた学術シンポジウムでは、中国の研究者らが、バタネス諸島は台湾の地理的延長であり、中国共産党に主権があると主張した。フィリピンによる領有には法的根拠がないとの見解も示した。
研究者らは、バタネス諸島が明・清朝時代に台湾府の管轄下にあったとし、1898年のパリ条約などでもフィリピン領に含まれていなかったと論じた。
さらに、第二次世界大戦後の国際秩序に基づき、日本が中国から奪った領土として返還されるべき対象にバタネス諸島も含まれていたと主張。現在のフィリピンによる統治は、法的根拠を欠いた既成事実にすぎないとの見方を示した。
これに対し、NHCPは衛星や海洋に関するデータを挙げ、大陸棚はルソン島北部からバタネス諸島へ連続していると反論した。
1687年の英国人探検家の記録にも中国による支配の痕跡はなく、先住民のイバタン人が独自に交易していたと指摘した。1783年以来、スペイン統治下のフィリピンが同諸島を継続的に実効支配してきたことや、1945年に住民が自力で解放した歴史も示した。
NHCPは中国共産党側の主張を「学術の皮をかぶった悪意ある虚偽」と批判し、歴史的、地理的、科学的事実に反するとした。
沖縄の「地位未定論」と類似
中国の研究者がバタネス諸島について展開した主張は、古い公文書を強調する一方、近代の条約の文言を都合よく解釈して現在の領有権の不備を突き、法的空白が存在するかのように論じる点に特徴がある。
同様の論理は、沖縄を巡る「琉球地位未定論」にもみられる。
中共側では、1609年の薩摩藩による琉球侵攻や1879年の琉球処分を、日本による侵略や植民地化と位置付ける主張が発信されている。カイロ宣言やポツダム宣言の一部を根拠として、日本の領土は本土4島に限定され、沖縄の主権は確定していないとする議論である。
その一方で、戦後の領土処理を定め、日本の沖縄に対する潜在的主権を確定させたサンフランシスコ平和条約については、中共側によって意図的に隠蔽・無視されている。バタネス諸島と沖縄を巡る議論には、古い記録を強調し、現在の領有を支える条約の効力を弱めようとする共通点がある。
学術・文化活動を通じて主張を拡散
領土や主権に関する主張が、軍事的な威圧ではなく、学術シンポジウムや文化番組などを通じて発信される点も共通している。
中国国営テレビCGTNのフランス語放送は、歴史ドキュメンタリー番組「失われた王国を求めて」などを制作している。番組では、琉球が歴史的に日本から抑圧され、中国に助けを求めていたとする歴史像が描かれている。
こうした番組や学術研究の見解が、中国の影響下にあるとされる非政府組織(NGO)などによって客観的資料として引用され、国連へ人権報告書として提出される構造も指摘されている。文化・学術上の主張が国連の公式記録に収録されることで、国際的な認識を形成する材料となる可能性がある。
中国共産党の「三戦」では、世論戦、心理戦、法律戦が連動するとされる。沖縄を巡っては、「日本は抑圧者、沖縄は先住民族であり被害者」とする主張を世論戦によって広め、心理面へ働きかけた上で、国連の脱植民地化特別委員会(C24)などを通じて、沖縄を非自治地域の一覧に加える法律戦につなげる構図が懸念されている。
日本にも公式記録の発信求める
NHCPは声明で、「真実は誠実な研究にしか宿らない。いかなる捏造も過去の真実を消し去ることはできない」と強調し、中国側の主張に国家機関として反論した。
一方、日本は国連機関から沖縄県民を先住民族と位置付ける勧告を繰り返し受けてきた。日本政府は法的拘束力がないとの立場を取っているが、反論が十分に記録されなければ、日本による人権侵害が存在するとの主張が国際機関の文書に蓄積される恐れがある。
こうした認識の固定化を防ぐには、日本政府や地方議会が公式な立場を国内外へ継続的に発信する必要がある。地方議会による「沖縄県民は日本人であり、先住民族ではない」との意思表示や、サンフランシスコ平和条約に基づく沖縄の法的地位を公文書として示すことが、主権を巡る認識の書き換えを防ぐ上で重要となる。
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