もし目の前で人が倒れたら、助けるか。それとも、関わらないか。
中国でまた、この問いを突きつける出来事が起きた。
湖南省衡陽市で8月17日、地域の人がマージャンやカードゲームを楽しむ小さな店を訪れた高齢男性が、椅子に座ったまま動かなくなった。
異変に気づいた女性店主は声をかけたが、反応はなかった。そこで周囲に助けを求め、ほかの2人と一緒に男性を店先へ移し、救急車を呼んだ。
約5分後に救急車が到着。男性は搬送されたが、その後死亡した。店主が男性を救護する一部始終は、防犯カメラに残っていた。
ところが男性の息子は、「何もしないで、そのまま座らせておけば何もなかった。あなたたちが手を貸して体を起こしたから、あなたたちにも関係があることになった」と主張。店側に10万元(約240万円)を要求し、遺体を店先に置いて営業できなくすると迫ったとも報じられている。
店側はこうした要求に納得できなかった。
店主の息子の李さんによると、母親は連日の不安とやりきれない思いから眠れず、めまいに悩まされ、食事ものどを通らなくなったという。家族がふさぎ込む姿を見かねた父親が、苦渋の末に支払いに同意した。
関係当局の調整を経て、店側は最終的に「人道的補償」として1万9000元(約45万円)を支払った。店も一時休業を余儀なくされた。
「助ける前に証拠を残す」
中国では、倒れた高齢者を助けた人が、逆に責任を問われる事件が繰り返されてきた。そのため、「うかつに人助けできない」という社会不信が根強い。
倒れた人を助ける際、後で責任を押しつけられないよう、スマートフォンで撮影して証拠を残す人さえいる。
今回、その「証拠」は最初からあった。男性が自ら店を訪れ、体調を崩し、店主らが救護するまでが防犯カメラに記録されていた。それでも、助けた側がお金を支払う結果となった。
事件がネットで広がると、「これでは誰も助けなくなる」と批判が殺到した。
こうしたなか、店主の善意をたたえるとして、地元企業が2万元(約47万円)の見舞金を贈った。店側が遺族に支払った約45万円を、わずかに上回る額だ。
それでも、「なぜ助けた側がお金を払わなければならないのか」と疑問の声は収まっていない。
善意で手を差し伸べた人が、逆に代償を払う。こうした出来事が繰り返されるほど、「関わらないほうが安全だ」という不信は、中国社会にさらに深く刻まれていく。
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