「彼らは人間ではなく、獣だ」 中国誌、労働教養所の闇を暴く 制度をめぐる攻防戦

2013/04/12 更新: 2013/04/12

2月始め、身を刺す寒さのなか、遼寧省大連市に住む王振さんは、同省の馬三家(マサンジャ)強制労働教養所(以下、馬三家)から釈放されたばかりの女性に会った。女性は王さんに、しわくちゃの紙切れを渡した。「嘆願書」と書かれたこの紙切れには王さんの妻で収容中の玉玲さんの署名もあり、労働教養制度の廃止を訴えるものだった。女性は嘆願書をビニールに包み、膣の中に隠して持ちだした。

 これは中国財訊メディアグループ傘下の「Lens視覚」誌が7日に掲載した「馬三家から脱出」と題する調査報道の一部だ。2万字におよぶこの報道は、労働教養所で行われている長時間労働、体罰、小部屋監禁、電気ショック、吊し上げ、拷問椅子、死人ベッドなどの闇の内幕を暴いている。「彼らは人間ではなく、獣だ」。かつての収容者は看守らをこう斬りつけた。

 人間地獄

遼寧省瀋陽市に住む蓋鳳珍さんは、警察の親戚に対するトラブルのため、長年にわたり陳情を試みており、2008年から4回にわたって労働教養所に収容された。一回目の収容は、労働教養所のなかでも拷問が残虐で知られる馬三家だった。

 Lens誌の取材に対し蓋さんは、2008年4月16日から19日まで「死人ベッド」に縛られたと証言。死人ベッドとは排泄用の穴が開けられた「ベッド」であり、収容者を首から足まで7つの固定具で縛る刑具。蓋さんはそこで強制的に流動食の注入を施された。口を開けない蓋さんに対し、看守らは子宮頚管拡張器を使って口をこじ開け、注入後もしばらく放置したという。「口の中の肉が剥がれ、血が大量に流れた。すべての歯がグラグラとした」

 2009年2月25日から4月まで蓋さんは「小号」と呼ばれる独房に監禁された。小号は4~6平米の小部屋で、採光の窓はない。換気用の小窓はあるものの、蓋さんが入れられた小号では、それも閉められていた。「息ができない。床で寝るしかないが、排尿排便も床の上。おまるをもらったのは三日目」。小号に入る前、蓋さんは吊し上げの拷問も受けていたので、小号では「真っ黒な血を3回吐いた」という。

 蓋さんは3月にドイツ国際放送ドイチェ・ヴェレの取材も受けた。収容された女性たちは「人間としての尊厳どころか、性的虐待も受けている」と証言。「(教養所の)中では私たちは人間ではない。顔や体を洗う時はもちろんのこと、トイレの時も監視される」。数日間、ほぼ全裸で固定された死人ベッドでは、「臀部が化膿し、男性看守らがさらに暴行を加えた」と蓋さんは話した。

 「彼らは人間ではなく、獣だ」。蓋さんのこの悲痛な声は、2万字の報道で伝えた他の12人の女性の体験を代弁するものでもあった。しかし、勇気あるこの報道では、馬三家の主なターゲットとなる収容者グループには言及していない。

 報道されなかった「主なターゲット」とは

 現在ニューヨークに住む張連英さんはそのグループの一人だ。中国の金融大手・光大集団で公認会計士をしていた張さんは、北京五輪が開催された2008年に、法輪功学習者という理由で、馬三家に収容された。

 「私と一緒に北京から馬三家に移された法輪功学習者は50人。ほかにも知っているだけで、同時期に4グループが馬三家に移送された」

 馬三家は、法輪功学習者を収容・迫害する重要拠点の1つ。1999年、江沢民が法輪功迫害を発動して間もなく、当時大連市市長をしていた薄熙来は遼寧省のトップに昇格。薄はすぐ、江が首謀した法輪功迫害の手先となり、中央から手にした5億元の資金で馬三家を増築し、法輪功迫害の拠点に仕立てた。Lens誌が今回暴露した数々の拷問の手口は、いずれも最初は法輪功学習者をターゲットとしていた。

 米国の海外向け放送ボイス・オブ・アメリカは10日、国内初となるLens誌の報道は海外では珍しくないとし、「この教養所には数多くの法輪功学習者が収容されているため、長年にわたって学習者らが告発する対象となっていた」と伝えた。AP通信もLens誌の報道を受け、同報道は「法輪功学習者が10年前から訴えた内容と一致している」と報じた。

 馬三家に送られた張連英さんは2010年の釈放後、知り合いの警官の助けで米国に脱出。2011年、AFP通信は彼女が受けた虐待を報じた。「そこ(馬三家)では数百人の法輪功学習者がいた」「板で口を叩いたり縛り付けたりし、顔は青黒い傷跡だらけだった」。また、同じ時期にほかの労働教養所に収容された張さんの夫について、「大勢の警官と4人の囚人に押し倒され、服を全部剥がされ、全身に電気棒で衝撃を与えられた」と報じた。

 張さんは、大紀元の取材に対して、馬三家で法輪功学習者が受ける3つの脅し文句を紹介した。「馬三家を思い出すだけで身震いさせる」「2人の死亡枠がある。欲しい人にあげる」「思想転化(法輪功を罵倒し共産党を擁護)しなければ、生きて出獄するなんてありえない」。この3つの脅し文句通り、スタンガンや木棒、床板、手錠などによる殴打は日常茶飯事。神経を破壊する不明な薬物を強制的に飲ませられ、性的虐待もあったと張さんは証言した。「生と死のぎりぎりの狭間で、もっとも残虐な形で拷問された」。張さんは馬三家で受けた迫害をこう振り返る。

 Lensの波紋

「長年、海外の敵対勢力によるデマだと聞かされてきたが、実は本当だった」。Lens誌に報じられた多くの実例を前に、読者たちは震撼した。国内の著名作家であり、新京報の元編集長だった曹保印氏は、「ひと文字ひと文字に血がにじんでいる。そにには人間的な感覚も法制も道徳も文明のかけらすらもない。明らかに野蛮だ」と自らの評論番組で憤りをあらわにした。

 北京紙・通州時訊報の記者部主任「野鶴氷壷」は、「これが人間社会なのか?地獄なのか?どのような制度がここまで人を悪魔にできるのか?この邪悪な制度は早く廃止されるべきだ」と記した。「恥知らずの制度が人間のもっとも卑劣な部分を助長している。このような国、このような制度の下で生きなければならないとは惨めだ」「半分読んだが、続きを読む勇気がない。これほどまで暗い制度が、今も続いている。廃止されるべき制度は、労働教養制度に限ったことではない」「これが21世紀の大国で起きていることか?」。ネット上では驚愕と批判のコメントがあふれた。

 著名な人権弁護士・江天勇氏は、Lens誌の記事についてドイチェ・ヴェレの取材を受けた。労働教養制度は法輪功学習者を主なターゲットとしていたが、近年では陳情者・異見者を弾圧する「利器」にもなったと指摘。馬三家以外にも、河北高陽教養所や北京大興教養所など、Lens誌が暴露した状況が全国にわたって「普遍的に存在している」。「(教養所から)出てきた人はすぐに亡くなったり、障害者や精神病患者になる人も多い」という。「これは単なる悪法ではなく、法律そのものを辱める制度だ」と江弁護士は咎めた。

 制度をめぐる攻防戦

Lens誌の記事は7日から8日にかけて、網易、騰訊、新浪などの国内大手ポータルサイトに掲載され、有名人のブログやミニブログ・微博などを通じて瞬く間に広がった。しかし、9日には同記事はLens誌のホームページからもポータルサイトからも忽然と姿を消した。

 そもそも同記事が日の目を見たのは、年初めから高まった労働教養制度の廃止論が背景にある。1月7日、司法・公安を統括する共産党中央政法委員会のトップ・孟建柱書記は幹部会議で、年内の労働教養制度の廃止を発表。裁判なしで最長4年間、市民を拘束することができるこの制度は習近平主席が掲げる法治の実現と相容れない存在だからだ。

 今回のLens誌の報道直後も、遼寧省当局が報道内容を重視して専門の調査チームを立ち上げたと東北新聞網は報じた。メディアや人民代表なども調査チームに加わるよう要請しており、「客観的で、透明かつ公正に調査する」と宣言した。人民網も8日、「労働教養所は法外の地になるべきではない」と題する評論を掲載した。

 しかし、こういった廃止論は報じられる度にもみ消されている。1月の孟書記の発言に関する報道も、翌日には取り下げられており、今回のLens誌の報道も、人民網の評論も取り消されている。掲載しては取り下げられ、また新たな報道が現れる。この一連の動きから、同制度をめぐっての上層部での攻防戦の展開が浮き彫りにされている。

 労働教養所は江沢民派の陣として知られる。派閥の重鎮で、政法部門を10年間にわたって君臨してきた前政法委トップの周永康の下で、警察権力が暴走し、教養所における異見者への迫害もエスカレート。中でも、法輪功学習者への迫害は凄惨さを極める。

 同制度が廃止されれば、周永康やその後ろ盾となる江沢民らが行ってきた悪行も表面化する。これは同派閥が懸命に抵抗する要因であり、派閥の実力者でメディアを取り仕切る共産党中央宣伝部元トップの劉雲山も、不利な報道の抹消に余念がない。

 一方、習主席は、法治の実現を唱え、労働教養制度にメスを入れようとするものの、制度の第一被害者となる法輪功学習者には、これまでの発言の中でも、また、これまででもっとも大胆とされるLens誌の報道の中でも、触れていない。しかし、迫害を発動した江一派の毒の巣はまさにここにある。この毒を根こそぎえぐり出し、暴虐な拷問をさらに上回る臓器狩りの存在を世にさらせば、共産党政権が今もなお、手を血で染めていることが世間に知れ渡り、その存在の合法性も問われることとなる。この点を熟知する習主席の法治も、Lens誌の報道同様、今までにない大胆さを見せながらも、焦点をぼかしていく行く末が窺われる。

(張凛音)

 

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