複数の中国企業が、米国に逃亡中の中国人富豪・郭文貴を立て続けに告訴している。中国共産党内の事情を暴露し続ける郭は、自ら強力な党内の後ろ盾がいることをほのめかしている。この黒幕には、反腐敗キャンペーンで損害を受けた江沢民派寄りの党の高級幹部がいるのではないかと推測されている。
中国の経済系メディア・財新伝媒の胡舒立編集長や中国不動産業界の大物、潘石屹氏が米国で郭文貴を相次いで告訴した。6月9日には、中国企業9社もニューヨークの上級裁判所に訴訟を申し立てた。訴状によると、郭文貴とその関連会社は資産や不当な利益、負債等を違法に移転したとあり、2億7000万元(約44億円)の損害賠償を請求している。
原告側は、郭文貴は盘古公司や政泉公司に、中国の複数の建築内装会社との間で大規模な建築プロジェクトを締結させたが、プロジェクトが竣工しても郭側の2社は契約通りに施工費用を支払うことを拒否し、上記9社に対し合計3億6000万元(約58億円)が未払いになっていると主張している。
また、郭がこの2社を通じて結んだ建築プロジェクトによる利益を個人名義で海外移転し、米国での不動産投資に用いたほか、豪奢な暮らしを送っていることにも触れている。
中国スキャンダルを暴露しながら「党高層に後ろ盾いる」とアピール
今年1月下旬から、郭は海外メディアやツイッターで中国の政治家や財界人に関するスキャンダルを立て続けに暴露している。最近では、中央規律検査委員会(中紀委)書記の王岐山に矛先を向けるようになった。郭は一連の発言の中で「老領導(党高層指導者)」を頻発して自身に強力な後ろ盾がいることをほのめかしている。郭の背後にいるとされる「老領導」とは、おそらく江沢民派の前共産党中央政治局常務委員・曽慶紅と考えられている。
郭の言動は中国政局にとって不安定な要素と見られ、郭の口を封じるため、北京当局もあらゆる手段を講じている。郭を米国の司法機関に告訴したほか、財新伝媒や新京報といった中国メディアに、郭と国家安全部や公安・司法部門との間で行われた利益交換や、郭の子会社による汚職について大きく報道させ、国際刑事警察機構(インターポール)に働きかけて郭らの「国際指名手配書(赤手配書)」を出してもいる。
ニューヨークタイムズ紙「今年最大の中国政治ニュース」
ニューヨークタイムズ紙は最近、一面トップで郭文貴事件を取り上げ「中国の政治に関する今年最大のニュース」と報じた。同紙もまた、習近平政権に混乱をもたらすため、郭を後押ししている共産党内の人物がいるのではないかと指摘した。
日本戦略研究フォーラムの澁谷司氏は自身のブログで、郭の黒幕となっているのは「反腐敗運動により大打撃を受けた江沢民派である公算が高い」とし、反腐敗政策を進める中心人物である王岐山氏のスキャンダルをリークすることで、習政権の邁進させる反腐敗キャンペーンに支障をきたすことを狙っているとの推論を示した。
(翻訳編集・島津彰浩)
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