菅義偉・内閣官房長官は7日午前の会見で、北朝鮮が3日に強行した核実験に先立ち、電子系統に壊滅的な打撃を与える電磁パルス(EMP)攻撃もできると主張していることについて、「万が一の備えとして、国民生活の影響を最小限にするため、政府は必要な対策をとる」と述べた。専門家は「北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)よりEMP攻撃を先行させる」との見方を示しており、人々の生活に甚大な損害をもたらすEMP攻撃について、注目されている。
朝鮮中央通信は3日の核実験前、金正恩・朝鮮労働党委員長が「水爆」を視察し、開発された核弾頭について電磁パルス攻撃を可能にする多機能弾頭だと報じていた。
電磁パルス攻撃とは?
電磁パルス攻撃は、高度30~400キロの上空で核爆発を起こして、人工的に強力な電磁波をともなう「雷」を発生させ、現代社会を支える電気系統を故障・誤作動を引き起こす。具体的な被害は、大規模な停電、電気で制御するガス・電気・水道のライフラインの供給の停止、原子力・火力・風力・太陽光など各種発電所の制御不能、パソコンや電話などのデータ破壊と機能停止、交通インフラをマヒさせるなど。
また、爆発させる上空の高度が高ければ迎撃は困難で、大気圏再突入技術もいらない。高高度の核爆発で、地上に熱戦や衝撃波は届かず、直接人や建物を損傷しないと考えられる。しかし、人の暮らしを非正常化させる被害が想定されている。
韓国の公共放送、KBSは9月3日夜、電磁パルス攻撃により、生活環境における「基幹施設が停止したり誤作動を起こしたりして、石器時代に戻るだろう」との専門家の見方を伝えた。
電磁パルス攻撃の影響は広範囲にわたる。シンクタンクの日本戦略研究フォーラムによれば、もし爆発規模10キロトン(TNT火薬換算)の核爆弾が、東京の上空、高度100キロで爆発した場合、電磁パルスの影響範囲は直径2200キロにおよび、北海道から九州が対象となる。
2004年、米国議会で公開された報告によると、電磁パルスで全米の社会インフラが崩壊すれば、復旧に数年かかり、損害は数百兆円。食料や燃料不足と衛生面の悪化により病気の蔓延や飢餓が発生し「1年後に米国民の9割が死亡」と、背筋が凍る数字を出した。
日本混乱 工作員の潜入 複合作戦で最悪のシナリオも
ジャーナリストの田中良紹氏は、自身のブログで、「どんな制裁を課しても核ミサイル開発をやめることはない」金正恩・朝鮮労働党委員長は、「核兵器搭載の大陸間弾道弾ICBMがワシントンに届くより、ニューヨークやワシントンがEMPの攻撃対象」になると、電磁パルス攻撃の先行性を指摘した。
また、「電磁パルス攻撃はそれ単体で終わらず、他の作戦と連動するはず」とITジャーナリスト宮脇睦さんは、自身のメールマガジンで指摘する。宮脇さんは、社会機能のマヒにより引きこされる混乱に乗じて、北朝鮮の工作員が日本国内で破壊活動を行うことは考えられる、と警鐘をならす。
宮脇さんは最悪のシナリオとして、「日本人」として日本国籍を持つ北朝鮮の工作員が、電磁波の影響を受けない自衛隊の武器弾薬をのっとり、内部から日本を威嚇する戦略を可能性として取り上げた。また、この脅威を交渉カードとして、日本に対して「北朝鮮の核兵器を認めろ」と要求してくることも考えられるとの見方を示した。
電磁パルス攻撃に関して、日本の国会でも議論されている。2011年、予算委員会で、当時の森本敏・防衛大臣が小池百合子議員の質問に対して「平成15年(2002年)から18年(2005年)にかけて、この爆弾に対する防護措置として実験を繰り返し、研究し、試作をして、少なくともこれを電子機器の防護措置によって対応できるという実験に一応成功した」「装備化を検討中」と回答している。
また2017年5月の国会・外務委員会では、土本英樹・ 防衛省大臣官房審議官が、国の防衛における自衛隊のEMP対策について3点を報告。 ▼指揮中枢機関の地下化▼通信網の多重化▼電磁パルス攻撃に対する装備品の防護に関する研究を実施したという。
7日の記者会見で菅官房長官は、電磁パルス攻撃に関して「国民保護ポータルサイトでの情報通知も検討する」と述べた。過去最高額となった防衛省の平成30年度予算概算要求では、電磁パルス攻撃に関する研究費として、14億円を計上している。
(編集・甲斐天海)
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