豪州、中国人留学生ビジネスで1兆円収入 中国依存に警鐘

2018/03/28 更新: 2018/03/28

オーストラリアでは現在、大学の大きな収入源となっている中国人留学生が激増している。彼らが大学に在籍することで毎年92億米ドル(約1兆円)もオーストラリア中央銀行の預金残高は増加するという。留学教育ビジネスは利益率が高い。しかし専門家は、中国政治経済への依存に繋がりかねないとリスクを警告する。

大学情報サイト「ユニバーシティ・ワールド・ニュース」によると、現在オーストラリアでは中国からの13万5000人以上の学生が在籍しており、全オーストラリア外国人留学生の約4割を占める。25年前の1993年は計4万3000人の留学生がおり、中国人学生はわずか2700人だった。いまや、その50倍になった。

政府統計局(ABS)によると、学費、手数料、生活費など、外国人留学生を受け入れることで、年間280億ドル(約2.9兆円)もの経済効果が生まれる。その4割にあたる中国人留学生からは毎年112億ドル(約1.1兆円)を得ている計算だ。

シドニー・モーニング・ヘラルド3月2日付けによると、2017年にシドニー大学に入学した全学生のうち、約4人に1人が中国人だった。ニューサウスウェールズ大学では5人に1人、シドニー工科大学で6人に1人だった。

オーストラリア政府によると、国の大きな収入源である留学生受け入れは、国策として推進している。2016年~2017年の外貨獲得産業の中で、鉄鋼輸出(6兆円)、石炭輸出(5.2兆円)に次ぎ3位(2.6兆円)につけた。

いっぽう、不安定要素をはらむ「留学生頼み」という過度な依存に警告するよう声がある。昨年、ニューサウスウェールズ州監査事務所は報告書で「留学生の増加は大学に経済的利益をもたらすが、人数の制約や教育の質の維持、政治事情など、多くのリスクも伴う」と述べた。

留学教育プログラムを提供するグラッテン学院のアンドリュー・ノートン代表は、学生数の急速な増加に、高い学問基準が維持できるかどうかについて疑問を呈している。

2017年9月、オーストラリアの大学の講義内容に、台湾や香港を国と同列としているとして、中国人留学生がインド人講師に詰め寄り、抗議活動を展開した。現地の中国語メディア「シドニートゥデイ(Sydney Today、悉尼今日)」によると、こうした領土争議における授業停止がしばしば発生している。

中国共産党は、留学生を含む海外に住む中国人に対して、共産党思想と中国の社会主義から逸脱しないよう、大使館や領事館を通じて言動をチェックしているとされる。中央政府管轄の統一戦線部は学生たちの監視役を担っており、外国の大学に設置された中国語教育機関「孔子学院」も同部の管理にある。

中国人留学生には、大使館が糸を引くスパイとなっているとも、駐シドニー中国領事館元外交官・陳用林氏は明かしている。陳氏によると、大使館はスパイ活動に従事する中国人留学生のすべての必要経費を援助していると暴露している。

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同月、マルコム・ターンブル首相は、外国人や外国企業・団体からの政治献金を禁止する選挙法改正案を議会に提出すると発表した。「外国が我が国の政治活動を干渉しようとしている」として、中国やロシアを名指しした。ターンブル政権は、スパイ活動の定義を広げて、外国勢力のスパイに対する刑罰も強化するという。

昨年10月にも、オーストラリア保安情報機構(ASIO)のダンカン・ルイス局長は、「大学における中国などの外国勢の干渉」を警告した。

中国関係においては、経済的な利益関係にとどまらず、アジア太平洋地域の軍事、外交に深く関わる。識者は、ターンブル政権の強硬姿勢は中国共産党政府による「報復」を引き出すかもしれないと見ている。

たとえば、韓国・文在寅政権が在韓米軍のために高高度防衛ミサイルシステム(THAAD)設置を許可すると、報復措置として、韓国製品不買運動を促し、韓国への旅行制限、若者向けの韓国の流行歌「Kポップ」の流通の制限などを行った。ヒュンダイ経済研究院によると2017年の損失は約8500億円にのぼると試算した。

ニューサウスウェールズ州のチャールズ・ストラート大学の公共倫理学クレイブ・ハミルトン教授は「中国当局は、政治的目標を達成するために経済的手段を講じることには熟練している」と述べた。

「遅かれ早かれ、中国共産党は大きな力で我々を引き込んでいこうとするだろう。オーストラリアの大学の真価が問われている」とハミルトン教授は懸念をし示した。

(編集・佐渡道世)