デンマーク政府は最近、同国自治領グリーンランドでの3つの航空建設プロジェクトで、中国企業が関わることに「安全保障政策に考慮するべきだ」として排除を示唆した。
欧州と北米の間に位置する氷河の島グリーンランドは、デンマーク政府が外交と安全保障を担う自治領。
グリーンランド政府は3月、3つの航空建設プロジェクトの入札に手を挙げた5カ国の11企業から、中国交通工業集団を選択したと発表した。投資額は4.2億ドルとされる。
米国の同盟国であるデンマークは、中国資本がインフラに関与することに難色を示している。政府は「空港建設プロジェクトは規模が大きく、外部協力者に頼る部分が大きい。そのため安全保障政策の側面から見る必要がある」との見解を示した。
2016年にもデンマーク政府は、中国鉱業・俊安グループが、グリーランドにある旧米海軍基地施設を買収する案を持ち掛けたが、拒否した。
グリーンランドは米国と欧州にとって重要拠点となっている。氷河の島々を通りぬける、欧州と北米を結ぶ最短の航海ルートがある。
西北部にチューレ空軍宇宙基地が置かれ、人工衛星を追跡・管制している。また、弾道ミサイル早期探知システムも設置されている。
一帯一路 北極海開発は第3ルート
中国の大規模構想「一帯一路」の第3ルートとして、中国政府は2018年1月、アジアとヨーロッパ間を結ぶ北極海ルートの開発計画も発表した。
参考:北海道の開発含む 中国「氷上のシルクロード」東京ですでに説明会
「氷上のシルクロード」と呼ばれる北極海ルートは、中国発ルートなら、北朝鮮の日本海側の港から、津軽海峡を通って釧路港と苫小牧港をめぐり、さらにロシアを北上、北極海を西へ渡り、ノルウェーや英国などの港湾都市とつなぐ。
デンマーク政府高官は匿名でロイター通信の取材に対して、グリーンランドに食指を伸ばす一帯一路政策について「深く懸念している」と述べた。
「中国がグリーンランドに出る幕はない。デンマークは同盟国である米国の重要な防衛に関わる、大きな責任を負っている」と述べた。
グリーンランドのキム・キールセン首相は2017年末に北京を訪問し、このたび入札した中国通信建設のほか、北京建設技術集団、中国輸出入銀行の代表らと会談した。
欧州系メディアEURACTIVは、フランスの上院欧州問題委員会副議長アンドレ・ギャットリン氏と北極欧州問題専門家ダミアン・デジョージ氏による共著の記事で、「中国の裏庭である南シナ海の中国と米国の対立と同時に、米国の裏庭であるグリーンランドの中国投資は進んでいる」とした。
両者によると、自治能力の未熟なグリーンランドが中国投資を受けることは、ほかの地域と懸念すべき性質も異なるという。グリーンランドは2009年、デンマーク議会で自治法が制定されたが、自治機能には当時から疑問視されていた。
両者は記事のなかで「欧米の地政学から、重要地域であるにもかかわらず、グリーンランド当局は外交、防衛、政治面において成熟した議論がなされていない」と問題を指摘している。
「中国の戦略的なグリーンランドとの関係は、グリーンランドの自治を揺さぶり、デンマークを超えた枠の緊張材料になりうる」「欧州は強い政策で対抗しなければ、瞬く間に、中国の利益によってグリーンランドの立場を失うだろう」と分析を示した。
ロイター通信によると、空港建設作業は10月に開始する予定だという。しかし、同高官は、デンマーク政府はグリーンランドにおけるインフラ投資を拒否することは可能だという。
(編集・佐渡道世)
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