Chris Taylor
[ニューヨーク 2日 ロイター] – 米オハイオ州ウエストチェスターに住むモニカ・ドワイヤーさんが定年後の生活について考えるとき、思い出すのは家族ぐるみの友人だったポールさんのことだ。
ポールさんには妻と子どもたちがいて、消費財大手プロクター・アンド・ギャンブルで良い地位に就いていた。だが妻はポールさんより15年早く亡くなり、次第にポールさんの社会的交流の幅は狭まっていった。同時に、懐具合も厳しくなった。
やがて、ポールさんは「食うや食わず」の状態になったと、ドワイヤーさんは振り返る。
冷え込むオハイオの冬のさなかでも、ポールさんは自宅の空調を13度に設定。死の直前は、運転できず、1つ1ドル(約110円)のマクドナルドのハンバーガーで食いつなぎ、子どもたちとは絶縁状態だったという。
「すっかり忘れ去られた存在になっていた」と、ドワイヤーさん。
ポールさんのような人の話を聞くことは普段あまりないかもしれない。だが、そのような人々は確かに存在する。医療保険大手シグナ<CI.N>が先月公表した研究によると、米国人の半数近くが時々、またはいつも「寂しい」と感じており、同研究はこれを国家的「伝染病」だと結論している。
「社会とのつながりが感じられず寂しいという話を顧客から聞くことが多かったので、米国の孤独感の状況を理解しようと研究を始めた」と、シグナのダグ・ネメセック最高医務責任者は話す。
「結果は驚くべきものだった」
退職した人たちが感じる孤独が、感情面に及ぼす影響は明らかだ。孤立して誤解されていると感じ、他人との交流に意味が感じられない状態だ。
だが孤独は、家計にも影響を及ぼす。
医療費を例に取ってみよう。
「孤独を感じている人の方が、健康状態が悪い」と、ネメセック氏は指摘。「心臓病やがん、糖尿病や鬱(うつ)病、薬物中毒などの悪化と、孤独を関連付けている研究はたくさんある。実際のところ、健康面で言えば、孤独は1日15本タバコを吸うことに等しい」
戦略的で意思の強い人ならば、年を重ねるにつれて社会的に孤立を深めることを予防するために実践できる方法がいくつかある。
ファイナンシャル・プランナーは、以下の4つの方法を提唱している。
●退職者コミュニティーに引っ越す
退職者向けに開発されたコミュニティーは、社会的にはからかいの対象となることも多く、テレビの人気コメディードラマにも、主人公の両親がこのようなコミュニティーに家を買うエピソードが登場している。
だがフロリダ州の「ザ・ビレッジズ」と「サン・シティー・センター」のような大規模コミュニティーでは、「毎日ほぼ毎時間ごとになんらかのグループ活動が行われていて、いつでも参加できる」と、同州セミノールのファイナンシャル・プランナー、ホリー・ドナルドソン氏は言う。
退職者コミュニティーは、退職後も自宅でそのまま生活を送ることに対する有力な選択肢となる。住み慣れた自宅の居心地の良さは当初は魅力的に映るかもしれないが、身体的な不自由がある場合などでは特に、最終的に非常に孤独になる可能性がある。
●働き続ける
もしあなたが働くことが好きで、いまの職場に定年がないならば、ぜひとも出社し続けよう。職場を通じた人間関係を維持し、頭の働きをシャープに活発に保つことができるのが第1の利点だ。
2つめの利点は経済面だ。数年余分に働き続けるだけで、確定拠出年金(401k)をさらに積み上げることができ、何も取り崩さずに、年金の需給開始を遅らせて受給額を引き上げることができる。それだけで、退職後の資金はだいぶ余裕ができるだろう。
●ボランティア活動をする
ボランティア活動に参加する人は、より長生きで、身体の不自由度も低く、幸福度が高いことが、米政府のボランティア振興機関(CNCS)のデータ分析で分かっている。
中でも驚くべき事実がある。ボランティア活動は、収入や教育、婚姻状態などの要素よりも、幸福感に大きく影響しているのだ。
ボランティア活動に参加することで、あなたが大変な状況に置かれたときに支えてくれる新しいつながりもできる。多くの高齢者はこのことを直感的に知っている様子で、CNCSによると、米国の高齢者2100万人以上が、毎年合計33億時間のボランティア活動に従事している。
●味方を増やそう
退職者は、社会的な孤立が原因で、経済的な被害に遭いやすい。詐欺に遭ったり、だまされたり付け込まれたりすることによる被害額は、年間365億ドル(約4兆円)に上ると、退職者を主な顧客としている金融サービス会社トゥルー・リンク・ファイナンシャルの研究は指摘している。こうした被害の大半は、届出がされていないという。
悲しいことに、経済的被害の9割は、家族など信頼される立場の人によるものだと、非営利団体ナショナル・アダルト・プロテクティブ・サービシズ協会は分析している。
他人に好きなようにされる事態を防ぐための最善策は、自分の味方を増やすことだ。教会の友人や子ども時代の友人、親戚やボランティア活動の仲間など、あなたを気にかけてくれる人がいれば、被害に遭う可能性は減る。
「私はいつも、(銀行の取引記録などの)金融関係の書類の写しが、誰か信頼する人の所にも送られるよう手配しておくことを勧めている」と、ウィスコンシン州ハドソンのフィナンシャル・プランナーのブレット・アンダーソン氏は言う。
(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)
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