中国河北省の民間企業・大午グループは15日、地元裁判所が主催した競売で低い金額で謎の企業に身売りされた。事情を知る人権派弁護士は「出来レースで、当局による民間企業に対するあからさまな強奪行為である」と非難した。
インターネットに投稿された判決文の写しによると、大午グループは15日午後、高碑店市法院(裁判所)が主催する競売で保定芮溪科技という企業に6億8610万元(約137億円)で落札された。
中国の人権問題を扱うサイト「維権網」などによると、大午グループの有形資産の簿価は51億元、無形資産と合わせると約100億元(約2000億円)になる。一方、裁判所の評価額は6億8600万元(約138億円)で、競売には実質同1社のみの参加で評価額で落札した。
匿名希望の北京在住の人権派弁護士は、米国営放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に対して、今回の競売は中国当局による「民間企業への露骨な強奪」と非難し、「裏取引であり、明らかに違法かつ不条理である」と語気を強めた。
「大午グループの資産を廃品として売っても、この(低い)評価額にはならない」という。
企業情報登録サイト「天眼査」の記載では、大午グループを落札した保定芮溪科技が設立されたのは、競売3日前の4月12日だった。
大午グループの社員と名乗るユーザーがSNSに投稿した証拠資料によると、同落札会社の監査役である劉玉婷氏は同省保定市中級法院の元副院長だった。
大午グループ創業者の孫大午氏(68歳)は、中国の有名な企業家である。鶏と豚の飼育などゼロから事業を起こし、1985年に大午グループを設立し、農業、養殖、教育、医療福祉など様々な分野に事業を拡大した。
孫氏は「権力とカネに媚びない」と歯に衣を着せぬ発言を繰り返した。地元では貧困世帯に無料の教育・医療を提供するなど人望が厚かった。一方、会社のホームページで立憲民主主義の観点から政治改革を求めたり、政府の農業政策を批判したりする文章を掲載したことが、共産党の不興を買ったと言われている。
2003年、孫氏は違法な資金調達の罪で執行猶予付きの懲役刑3年の実刑を言い渡された。
21年7月、孫氏は「群衆を集めて国家機関を突撃した」など8つの罪で、懲役18年の判決を言い渡され、現在服役中。同社の幹部19人はそれぞれ執行猶予付き判決、または1年以上12年以下の懲役刑に処された。弁護団の発表によると、裁判所は大午グループに3億元あまり(約60億円)の罰金、14億元(約280億円)の追徴金の支払いを命じた。
弁護団は判決後、「正常な裁判ではない」「中国における私営企業の生存と発展の環境、中国の人権と法治の状況に注意を払うよう懇願する」という内容の声明を発表した。
当時、判決は「法律の悪用」であり、同氏への「政治的迫害」という見方が広まっていた。
米国在住の人権派弁護士、滕彪氏は米国営放送ラジオ・フリー・アジア(RFA)に対し、今回の判決は中国共産党が民間企業を潰すためには手段を選ばないことを実証したと述べた。
(翻訳編集・叶子静)
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