この1カ月あまり、政治や経済、産業、軍事などの分野で、米国と台湾の関係が一段と緊密化した。 当記事では、米台の最近の6つの動きと緊密化した3つの理由を書き連ねる。
第1の動き 米議員団が3回訪台
8月2日、ナンシー・ペロシ米下院議長が代表団を率いて台湾を訪問した。 1979年の米台断交後、現職の下院議長が訪台するのは、1997年4月のニュート・ギングリッジ下院議長以来25年ぶりとなる。米与党の下院議長としては初の訪台である。ペロシ下院議長にとっては22年ぶりの台湾訪問だ。下院外交委員会のグレゴリー・ミークス委員長や下院退役軍人委員会のマーク・タカノ委員長も同行した。
8月14日、上院外交委員会東アジア太平洋小委員会のエドワード・マーキー委員長(民主党)が、超党派議員団5人を率いて訪台。
8月26日、米上院商業委員会および軍事委員会のメンバーであるマーシャ・ブラックバーン上院議員(共和党)が代表団を率いて訪台。
第2の動き 州知事2人が相次ぎ訪台
8月21日、米インディアナ州のエリック・ホルカム知事が代表団を率いて訪台。 2020年の新型コロナ発生以降、米国の州知事が訪台するのは初めて。
8月31日、アリゾナ州のダグ・デューシー知事が代表団を率いて訪台。アリゾナ商工会議所会長やアリゾナ州経済開発庁長も同行した。
第3の動き 米台貿易協議を開始へ 9月にも
8月17日、米通商代表部(USTR)は6月に台湾当局と立ち上げた「21世紀の貿易に関する米台イニシアチブ」について、第1回の交渉を今秋にも開始すると発表した。
米台は、6月1日に「21世紀の貿易に関する米台イニシアチブ」の立ち上げを発表した。USTRは、2か月以上の準備期間を経て、米国在台協会(AIT)と台湾の駐米代表部に相当する台北駐米経済文化代表処が交渉権限(マンデート)の合意に至ったと表明した。
USTRは声明で、交渉分野は貿易円滑化、優良規制慣行、反腐敗、中小企業、貿易に対する差別的障壁の撤廃など11分野と説明した。
第4の動き 米台が「宗教の自由」関する国際フォーラムを共催
8月30日、台北市内でインド太平洋地域における「宗教の自由」について議論する国際フォーラムを共催した。
「米国在台協会」(米国の駐台大使館に相当)の孫暁雅・台北事務所所長が出席して挨拶をしたほか、ラシャド・フセイン信教自由担当特任大使がビデオメッセージを寄せた。米国際宗教自由委員会(USCIRF)の委員長で、ハドソン研究所のシニアフェローであるヌーリー・ターケル委員長が基調講演を行った。
インド太平洋地域の「宗教の自由」に関する国際フォーラムの開催は、2019年に続いて2回目となる。
第5の動き 米国務省が台湾に11億ドル超の武器売却へ
今月2日、米国防総省は、台湾に対し対艦ミサイル「ハープーン」60発や空対空ミサイル100発など11億ドル(約1500億円)の武器売却を承認したと発表した。
第6の動き 米軍艦2隻が台湾海峡を通過
28日、米海軍第7艦隊はタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦2隻が台湾海峡を通過したと発表。ペロシ氏の訪台後、台湾情勢を巡る緊張が高まって以来、台湾海峡の米艦船通過は初めて。
第7艦隊は声明で、米艦アンティータムとチャンセラーズビルは、国連海洋法条約に基づき航行の自由と飛行の自由が適用される海域で、定期的な台湾海峡の通過を実施したと説明。
台湾海峡の米艦船通過は、自由で開かれたインド太平洋への米国のコミットメントを示している。
続いて、こうした6つの動きに至るまで緊密になる米台関係の近年の背景と国際情勢について説いていきたい。
第1の理由 台湾めぐる情勢緊迫化 高まる中国の軍事的圧力
2020年6月、中国政府が香港で「香港国家安全維持法」を押し通し、「一国二制度」が崩壊し、香港が「中国化」して以降、台湾占領が次の標的となった。
2020年の新型コロナ発生以降、中国軍は渤海、黄海、東シナ海、南シナ海で計数十回軍事演習を行っており、 中国共産党の台湾に対する軍事的圧力は一段と強まっている。
ペロシ氏の訪台を受け、中国軍は軍事演習は台湾を包囲する形で6海域で実施した。台湾の北東部、南西部の周辺海域に向け弾道ミサイル「東風」計11発を発射、うち5発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。
米政府系メディアのボイス・オブ・アメリカ(VOA)は今月3日、台湾の防空識別圏(ADIZ)違反追跡データベースが収集した公開情報によると、8月にADIZに進入した中国軍機の数は延べ444機となり、昨年10月の過去最高記録だった196機の倍以上となったと報じた。
2020年9月~22年7月末まで、台湾海峡の中間線を越えた中国軍機は計23機であったものの、8月は延べ300機となり、約15倍と急増している。
中国軍による台湾への軍事的圧力が常態化する中、台湾海峡の有事に備え米台連携の動きが強まっている。
第2の理由 戦略物資・半導体の巨大産業を擁する台湾の重要性
産業革命の時代、最も重要なエネルギー源は石油だった。
デジタル革命の時代、最も重要な物資は半導体である。
台湾には、半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)をはじめ、特殊部品の重要なサプライヤーが存在し、世界の電子部品サプライチェーンにおいて重要な役割を担っている。
台湾国防部傘下のシンクタンク「国防安全研究院」国家安全研究所の沈明室・所長によると、2022年度第1四半期に、TSMCは半導体受託生産で53.6%のシェアを誇り、他の競合他社を大きく引き離している。TSMC の10ナノメートル(nm)プロセスの半導体は世界の供給量の約69%を占め、7ナノメートルプロセスの半導体は78%に達した。今年下半期には、3ナノメートルプロセスの半導体の量産で世界市場シェアの98%を獲得すると予想されている。
近年の米台関係深化は、台湾の半導体産業に大きく関係している。
8月に訪台した3つの米議員団と州知事2人は、いずれも台湾の蔡英文総統との会談で、「米台間の半導体分野の連携強化」および「半導体サプライチェーンの安全性」の重要性を訴えた。
デューシー知事の台湾訪問の主な目的の一つには、TSMCの誘致がある。
2020年5月、TSMCは約120億ドル(約1兆6000億円)を投じフェニックス市北部に半導体の製造工場を建設する計画を発表。同計画は、 ハイテク産業のサプライチェーンを構築する上での米台連携の画期的なプロジェクトで、現在は主要施設よ建設が完了している。
アリゾナ州には100社以上の台湾企業が進出しており、フェニックスは米国における「リトル台北」として機能している。
第3の理由 対中感情の世界的悪化
台湾にとって最大の脅威は、中国共産党である。 中国共産党はなぜ台湾を延々と脅すのか? イデオロギー的な理由は、中国共産党がマルクス・レーニン主義であることだ。
「マルクス・レーニン主義の本質とは何か」。つまり、虚言、邪悪、闘争、暴力、反人類、反神仏のカルトである。そのルンペン(ごろつき)的な性格ゆえに、台湾ひいては世界に挑戦し、反感を買っている。
6月29日、米民間調査機関ピュー・リサーチ・センターは、世界19か国で実施した中国に関する世論調査の結果を発表した。中国について「好ましくない」との印象を持つと回答した割合は、アメリカが82%、日本が87%、オーストラリアが86%、スウェーデンが83%、韓国が80%、オランダが75%、カナダが74%、ドイツが74%だった。19カ国の68%(中央値)の人が「好ましくない」、27%が「好ましい」と回答した。
調査は、19か国の成人2万4525人を対象に、2月14日から6月3日にかけて実施。
世界的に対中感情が悪化傾向にあり、対中感情悪化の裏返しとしての「親台」世論が形成されつつある。
中国共産党の性格上、台湾海峡は今後も翻弄され続けるに違いない。 中国共産党が翻弄すればするほど、米国と台湾の距離は縮まり、国際社会の台湾への支持は強くなるだろう。
(翻訳・河原昌義)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。