米国で強まるTikTokへの規制 無策の日本はどうする

2023/02/23 更新: 2023/02/22

人気の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」をめぐり、米国では規制強化が進む。連邦議会ではこのサービスを名指しした法案が審議され、バイデン政権も連邦政府機関での使用禁止に動く。一方で日本ではユーザーが増え続けているのに、政治もメディアも無策だ。この警戒心のなさは異様で危険だ。

GAFAMの独占を破る快挙、しかし…

TikTokは世界中で使われる人気のアプリだ。バイトダンス(本社・北京、中国名・字節跳動科技)が運営し、中国圏サービス「抖音」(ドゥイン)も含めると、同社の21年9月時点の発表によれば約10億人が利用している。

コンテンツは利用者の自主投稿の映像が大半で、多くは無料で閲覧できる。音楽、ダンス、パフォーマンスでの映像が面白く、質の高いものも多い。一つの映像が出ると、それに関連する映像が次々と出るので、継続して閲覧し続けてしまう。おすすめ動画を選ぶA Iの機能が優れているのだろう。このサービスの存在感の大きさを利用してテレビや企業がタイアップ広告を行い、プロの芸能関係者も配信する。一部に有料コンテンツもある。アプリのダウンロード数は、2021年から米国、世界でトップだ。

I T・ソーシャルメディアでは、GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)と呼ばれる米国の巨大企業が、この20年間の世界をリードしてきた。そうした所に、後発の中国企業が切り込んで成功したのは驚くべきことで、優れたサービスと経営と言える。バイトダンスの経営陣の能力の高さに敬意を持つ。

ところがこのTikTokの利用者の情報が、中国共産党政権に抜かれる可能性がある。そして中共がさまざまな政治工作をこのサービスを使って仕掛けかねないという懸念が出ている。どの中国系企業もそうであるように、こうした批判にTikTokも積極的に答えていない。

同社の影響力の増大に危機感を強める欧米諸国とは対照的に、日本は官民共に無策だ。そして他国で締め出される可能性があるために、TikTokも日本市場での成長に関心を向ける。筆者は大紀元で、中国製の監視カメラ問題を取り上げた。まったく同じことが起きている。

米国で広がるTikTok利用制限−情報漏洩の懸念

「TikTokは、中国共産党がアメリカの利用者のデータにアクセスすることを許可している」「アメリカの人々にはこうした実態がプライバシーやデータの保護にどのような影響を与えるのかなどを知る権利がある」

米連邦議会下院情報通信委員会は1月30日にこのような声明を出し、3月に開催される公聴会にバイトダンス梁汝波CEOが出席すると発表した。米国の公の場所にTikTok首脳部はほとんど登場しないため、その発言が注目される。

FBI(米連邦捜査局)のクリストファー・レイ長官は、「中国政府への情報漏洩を懸念」とTikTokを名指ししたメッセージを出している。

米国政府のTikTokへの厳しい姿勢は、トランプ政権の時から始まった。米軍では2020年にTikTokの使用を禁止した。そして米国でビジネスを行う場合は、中国共産党政権から切り離されることを求めた。その政策はバイデン政権になっても継続した。バイデン大統領は2022年12月に、政府の電子デバイスでTikTokを使うことを禁じる超党派の法律に署名した。 

アメリカ国内では半数以上の州で、公的機関でのTikTokの使用を禁止している。リベラルな政策を打ち出す州として知られるカリフォルニアやニューヨークなどもそうだ。これは反中国の保守勢力だけが推し進めている政策ではなく、民主・共和両党に共通する政策とわかる。

直近では、2023年1月に名門校であるテキサス大学オースティン校が、キャンパス内でTikTokにアクセスすることを禁じた。情報や研究の漏洩を警戒するためという。大学での禁止は全米に広がる勢いだ。

疑惑解消にTikTokは非協力的、米政府に不信

TikTokへの不信が続くのは、急成長をしているのに、運営会社のバイトダンスの経営がベールに包まれ、しかも同社側が積極的に、情報セキュリティや運営の方法を開示しないためだ。

バイトダンス関係者の内部告発や公的機関の調査で、利用者の情報が中国共産党政権に漏れる話は、頻繁に出ている。動画から、投稿者、閲覧者の位置情報、名前、性別、電話番号、検索履歴、スマートフォンの利用履歴が見られ、中共に提供されている可能性があるという。また中国には、国内法で中国企業は情報機関にデータを当局に提供すると取り決めた「国家情報法」があり、これが使われかねない恐れもある。

保守系シンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所」(ASPI)の2020年のリポート(リンクhttps://www.aspi.org.au/report/tiktok-and-wechat )では、TikTokで中国での少数民族問題、ロシアでの政権批判など、各国でタブー視される投稿が検索にかからないようにする「シャドウバン」が行われている形跡があるという。また中国国内では、中共批判などの投稿者を追跡する政治利用が行われ、外国からも情報が流れているようだと指摘している。

確かに日本のTikTokで、日本語、英語で検索すると、「天安門」「ウイグル 人権」など、中国政府が批判されたくない問題では、検索しても何も表示されない。

もちろん米国がTikTokを批判するのは、同国企業の持つITでの覇権を維持しようという意図や、文化侵略やプロパガンダへの利用への不安もあるだろう。そうした米国の都合を考えても、懸念に当然の点はあるし、TikTokの対応も不十分だ。

完全に無策、呆れた日本の対応

TikTokへの米国の危機感に比べて、日本の無関心と対応の遅れは異様だ。米国ほどではないが、日本では推定1000万人以上の利用者がいて、若者に人気だ。

日本の国会検索システムで調べると、TikTok、バイトダンスという言葉が引っかからない。ほとんど国会で議論されていないのだろう。それどころかTikTokを政府や政党が広報に使う間抜けさだ。デジタル庁は普及を推進するマイナンバーで、若者向けの広報動画を大量にTikTokに流している。与党自民党内で、米国の動きを受けて懸念の声が出た。しかし河野太郎デジタル担当大臣は、「心配ない」と繰り返すのみだ。メディアも、TikTokの面白さやビジネス利用を紹介する記事はあっても、日本での利用実態や、安全保障への警戒感を打ち出した記事は少ない。

前述のASPIの政策リポートでは、TikTokを含め、個人が発信する新しい形のメディアでは、第三者による情報管理の確認を制度化することを提案している。トランプ政権から現在まで米国政府もそれをTikTokに求めている。しかしTikTok側はそれを拒否している。これでは不信感はなかなか消えない。ちなみに、筆者と大紀元編集部は同社日本法人に取材を申し入れたが返事はなかった。

TikTokのサービスを個人が楽しむことは自由だし、企業活動の自由は最大限尊重されなければならない。また中国の人々や企業への、敵意の拡散はしてはならない。しかし、情報漏洩の懸念はあり、日本は国も民間も無策だ。これは変える必要がある。

「ただより高いものはない」という古くからの言い回しが日本にある。無料でTikTokを楽しむ多くの人々が、その言葉をTikTokで思い出さなければよいのだが。政府も民間も一度、このサービスの使い方を立ち止まって考えるべきであろう。

ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。