人類史において、パーキンソン病は稀な疾患とされてきました。
ところが、2018年、非感染性疾患であるパーキンソン病がパンデミック状況にあるとする研究レビューが、専門誌に掲載されました。
高齢化や環境毒素などが組み合わさった結果であると、研究レビューは説明しています。
昨年には、世界保健機関(WHO)が、パーキンソン病による障害と死亡がアルツハイマー病を含む他の神経疾患よりも急速に増加していることを報告しています。
「パーキンソン・パンデミック」
1817年、ジェームズ・パーキンソン博士がロンドンで初めてこの症状を報告しました。 彼が発見した発症者は6人だけで、稀な症状でした。
ところが、先ほどの研究レビューによると、それから約200年経った2015年時点で、パーキンソン病の患者数は600万人以上にのぼるといいます。
さらに、ある調査結果によると、主に高齢化により、その患者数は2015年の600万人から2040年には1200万人以上に倍増することが予測されています。
「世界の疾病負担研究」によると、現在、神経疾患は世界中で障害の主な原因となっており、そのうち年齢標準化した罹患率、障害率、死亡率で最も急速に増加しているのがパーキンソン病だといいます。
米国では、これまで年間約6万人がパーキンソン病と診断されていると考えられていましたが、NPJパーキンソン病誌に掲載された新たな研究によって、その発生率は実際には以前の推定より50%高いことが明らかになっています。
罹患率と診断率の急増に加えて、地理的な広がりを見せていることも、流行性疾患との類似点です。
パーキンソン病ジャーナルの編集長パトリック・ブランディン博士は2019年の声明で、「2040年までに、人類の苦しみを増大させ、社会的費用・医療費の急増をもたらす(パーキンソン病の)パンデミックについて真に語ることになる」と述べています。
パーキンソン病罹患率の急激な上昇の理由は完全には明らかになっていませんが、主に以下の3つの要因がこの傾向に寄与しています。
高齢化
高齢は多くの病気の前提条件となります。パーキンソン病においても、最大の危険因子は高齢です。
ロチェスター大学の神経学教授 レイ・ドーシー氏は「稀な遺伝的形態を除けば、非常に若い年齢層がこの病気を発症することはめったにない」と述べています。
米国人口における65歳以上の人の割合は、1900年の4.1%から2019年の16%へと、ほぼ4倍になっています 。
パーキンソン病は、ニューロンの喪失によって引き起こされると考えられています。
ニューロンは、運動の制御において重要な役割を果たす神経伝達物質であるドーパミンを生成します。
年齢を重ねるにつれて脳の効率は低下し、損傷を修復できなくなり、酸化ストレスと闘えなくなり、ニューロンの数も減少します。
これらがドーパミンレベルの低下を引き起こすことで、震え、固縮、運動緩慢といったパーキンソン病の運動症状の一因となる可能性があります。
環境毒素
しかし、ドーシー氏は、高齢化や遺伝的要因だけで発症者が6人から600万人になるわけはなく、環境要因があるに違いないと述べており、 産業革命に関連した環境要因について指摘しています。
特定の除草剤や殺虫剤、さらにはドライクリーニングに使用される化学薬品などの工業製品は、大気汚染を引き起こします。
例えば、パラコート除草剤への曝露はパーキンソン病リスクが150%増加することと関連しており、おそらく活性酸素種を生成し、脳内で酸化ストレスを引き起こすからだとドーシー氏は指摘しています。
「1950年代に作られたパラコートは、これまでで最も有毒な除草剤の1つと考えられている。ラウンドアップでは除去できない雑草を枯らすことができ、殺人や自殺にも使用される」。
「この殺虫剤の製造業者が、パーキンソン病に関連する毒性効果について50年以上前から知っていたのは明らかだ」。
30カ国以上がこの殺虫剤を禁止しているなか、米国では(日本でも)禁止されておらず、近年その使用量は倍増しています。
ドライクリーニング用化学薬品として広く使用されているトリクロロエチレン (TCE) についても同様です。 この化学物質はパーキンソン病リスクが500%増加することと関連しており、動物実験によって疾病の特徴が再現されています。
TCEは、野菜から油を抽出したり、金属部品からグリスを除去するのにも使用されます。揮発性が高いため、生産・使用される地域の空気、水、土壌を汚染する可能性があります。
米環境保護庁は1月、TCEが「人間の健康に不当なリスクをもたらす」と述べています。
「それでもまだ市場に出回っている。そして世界的に使用量は増え続けている。全米の何千もの場所がこの化学物質によって汚染されていて、私たちの多くはその近くに住んでいながらそれを知らない」とドーシー氏は警告しています。
農薬曝露はパーキンソン病のリスクを70%増加させる可能性があります。ロテノンや有機リン酸塩などの殺虫剤は、細胞内のエネルギー生成構造であるミトコンドリアに損傷を与え、酸化ストレスやニューロン死を引き起こす可能性があります。
ウイルス感染
特定のウイルス感染がパーキンソン病の発症リスクを高める可能性を示すエビデンスがあります。単純ヘルペスウイルス (HSV) はその一つです。
HSVはヘルペスや性器ヘルペスの原因となる一般的なウイルスです。HSVに感染した人のほとんどは軽度か無症状で済みますが、より重度の神経合併症を発症する場合もあります。
最近の研究では、HSVがパーキンソン病の発症に寄与している可能性があることが示唆されています。パーキンソン病患者の脳内でHSVが発見されており、ウイルスへの曝露が脳の炎症とニューロン死を引き起こす可能性があることが研究で示されています。
あるシステマティック・レビューでは、ウイルスが血液脳関門を通過する可能性があることから、新型コロナウイルス感染症とパーキンソン病発症に関連性がある可能性が判明しました。またマウスを用いた研究によって、パーキンソン病下で、SARS-CoV-2ウイルスが脳の変性のリスクを高める可能性があることも判明しています。
他にも、インフルエンザウイルスやコクサッキーウイルスなどが、パーキンソン病のリスク増加と関連しています。
危機を乗り切るために
パーキンソン病の最も効果的な治療薬としては、数十年前からレボドパが服用されています。病を根治する療法は知られていませんが、危機を乗り切る方法はあります。
ドーシー氏は「予防がパーキンソン病の解決策です」と言います。
ウイルス感染がパーキンソン病の発症に寄与する正確なメカニズムは完全には理解されていませんが、関連するウイルスへの感染リスクを低減するための策を講じることはできます。たとえば、HSVは、特定の性的行動を避けることで予防できます。
また、ますます進む高齢化に対しては、一般的な運動を奨励する必要があります。運動機能を改善することで、パーキンソン病発症リスクを軽減することは証明されています。
また、農薬や除草剤を使用して栽培された食品の摂取を減らし、日常生活における毒素への曝露を減らすように努めることも重要です。
「パラコート、トリクロロエチレン (TCE) 、パークロロエチレン(PCE)を禁止し、空気を浄化すれば、パーキンソン病がますます稀で、一般的でない世界に皆が住める」とドーシー氏は述べています。
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