ファイザーとモデルナの新型コロナワクチンが、全死亡率に影響を与えなかったことが、臨床試験データの再解析によって明らかになった。
先月、南デンマーク大学保健学教授のクリスティン・スタベル・ベン氏ら研究者がセル誌で報告した。セル誌はライフサイエンス分野における世界最高峰の学術雑誌とされる。
研究では、ワクチンメーカーらが報告したランダム化比較試験のデータを解析した。
研究によると、ファイザーとモデルナのmRNAワクチンは、どちらも新型コロナによる死亡を防いだが、接種した被験者がより心血管系の問題で死亡しやすかったことで、予防効果は相殺された。
一方、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンなど、アデノウイルスを利用したワクチンは、新型コロナの死亡率および全死亡率に好影響を与えたと研究は示した。
研究者らは、「アデノウイルスベクターワクチンとmRNAワクチンの全死亡率に対する影響の違いが真実であれば、世界の公衆衛生に重大な影響を与えることになるだろう」と述べた。
本記事作成に際しファイザー、モデルナ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、アストラゼネカにコメントを要請したが、返答はなかった。
研究結果
ベン氏らは、mRNAワクチンの3つのランダム化比較試験(RCT)とアデノウイルスベクターワクチンの6つのRCTから死亡率データを取得し、ワクチン接種群とプラセボ群の全死亡数を比較した。それから、死因を新型コロナ、心血管系の問題、非新型コロナ、事故、非事故に分類して死亡者数を評価した。
「私たちは、新たなmRNAワクチンとアデノウイルスベクターワクチンの承認につながった研究から死亡者数を抽出し、各ワクチンについて、さまざまな死因別の相対リスクを計算した」とベン氏はエポックタイムズ宛の電子メールで述べた。
すると、ファイザーとモデルナのワクチンが新型コロナに起因する死亡率を低下させる一方で、心血管疾患や非新型コロナの死亡率を増加させることが明らかになった。その結果、接種群とプラセボ群の全死亡率に違いはなかった。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンは、全死亡率と非新型コロナの死亡率が低く、新型コロナに起因する死亡率には影響を与えなかった。
米国以外の一部の国では認可されたアストラゼネカのワクチンは、複数の試験で全死亡率やその他のカテゴリーにおいて良好な成績を収めたが、ある試験では、接種者が非新型コロナ及び非事故の原因でわずかに多く死亡した。
「研究結果は、プラセボと比較してアデノウイルスベクターワクチンが有益な非特異的効果を示し、非新型コロナの疾患リスクを減少させることを示している。最も重要な非新型コロナの死因である心血管疾患に対して、アデノウイルスベクターワクチンには少なくともある程度の予防効果があることを、現在のRCTのデータは示している」と研究者らは述べた。
また、研究者らは、mRNAワクチンが実際に全体的な死亡率を減少させることが期待されるとした上で、「非事故・非新型コロナの死亡率への影響に関する興味深い相違は、今後も続く可能性があり、将来的に調査が必要だ」と付け加えた。
ワクチン接種が実施されて以降、米国を含む多くの接種率の高い国で全死亡率が急増した。
研究者らの間でも、その原因について意見が分かれている。主にワクチンが死亡率の増加を促したとする主張がある一方、新型コロナや他の要因を追求する研究者もいる。
ベン氏らの研究は2022年に査読なしで発表されたが、論文を受け入れてくれるジャーナルを見つけるのに苦労したそうだ。ジャーナルに提出しても理由の説明なく拒否されることが多々あり、公表が遅れたという。
免疫システムへの影響
数名の専門家がこの論文を賞賛したなかでも、デンマークの医学研究者 ピーター・ゲッチェ氏は、「考えるきっかけを提供してくれる良い論文だ」とエポックタイムズに宛てたメールでコメントした。
ゲッチェ氏は、論文の共著者の一人であるピーター・アービー氏が行なった研究について自著で言及している。
アービー氏は他の論文で、アデノウイルスベクターなどの生ワクチンが全死亡率を減少させる一方で、ウイルスや細菌の病原性(毒性)をなくした不活化ワクチンは全死亡率を増加させるという仮説を裏付けている。
「このような『予期せぬ結果』は、公衆衛生による呼びかけを複雑にする可能性がある」とゲッチェ氏は指摘している。
また、ベン氏とアービー氏は、ファイザーやモデルナのワクチンが炎症を増加させ、他の病気への免疫力を低下させる可能性がある点にも注目している。
両氏をはじめ、他の専門家らは、ワクチンが無関係な病気の感染リスクに与える影響への懸念から、現在のワクチンテストおよび規制の枠組みが更新される必要があると、4月に別の論文で述べている。
批判を受けて
米国ミネソタ大学医学部の医学教授 デイビッド・ブールウェア氏は、今回の研究に対して批判的だ。
彼はエポックタイムズに宛てたメールで、試験が異なる場所で行われたことに注目し、米国など一部の国ではより優れた医療が提供できることを理由に、研究の設計が不十分であるとした。
研究者らも、部分的にその指摘を認める発言をしている。
「病気のパターンや治療レベルの違いが、ワクチンの全死亡率に対する効果の測定に影響を与える可能性があるため、2種類のワクチンのRCTにおける被験者数の違いが、比較に偏りをもたらしている可能性がある」。
「アデノウイルスベクターのRCTよりmRNAのRCTの方が感染者が多かったものの、前者のほうが新型コロナによる死亡者は多かった。mRNAの被験者の方が新型コロナ感染時により良い医療を受けていた可能性があり、それがmRNAワクチン接種が全死亡率に与える影響を低減した可能性がある」。
ブールウェア氏はまた、「実際のデータは論文の結論を裏付けない」と述べ、イスラエルとミネソタ州の観察データを指摘した上で、「mRNAワクチンがアデノウイルスベクターワクチンよりも新型コロナを予防するのは明らかだ」と述べた。
一方で、ベン氏は、この研究が複数のプラセボ対照RCTのメタ解析に基づいており、エビデンスとしてはピラミッドの頂点に位置する最高度のものであるとし、重要な焦点は全死亡率にあるとした。
「彼は新型コロナについて議論しているが、私たちは全死因死亡率を研究している。あるワクチンが他のワクチンよりも新型コロナを予防するか、全死亡率を低下させるかといったことは重要でない。むろん、新型コロナが死よりも悪であると考えるのであれば話は別だが」。
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