今も支給されないゼロコロナ政策下「臨時医療者」の給与 市衛生局前で抗議=中国・武漢

2023/05/29 更新: 2023/06/01

「白無常」「黒無常」という中国語がある。いずれも道教でいう「地獄からのお迎え」のことで、死にそうになっている病人の枕元へ現れて、病人を地獄へ連れ去る魔神の一種である。

「その白無常が、本当に現れた」と誰もが思ったのも無理はない。あの白い防護服の集団は、まさに現代の中国に出現した「白無常」であった。

市民から同情されない「白い失業者」

中国国内の情報を発信する、著名なツイッターアカウント「李老师不是你老师(李先生はあなたの先生ではない)」は23日、役所の前で横断幕を掲げて抗議する人々の画像を複数枚、投稿した。

この投稿には、次のような説明が添えられている。

5月23日午前、武漢。医療関係者のグループが(湖北省)武漢市江漢区の衛健委(衛生健康委員会)へ赴いて要求した。「(我われが)防疫期間中に流した血と汗の給料を支払え」「(我われに)もとの仕事を与えろ」と。

この説明に見られる「医療関係者」とは、現在、病院に勤務する医師や看護師ではない。「還我編制(もとの仕事を与えろ)」という要求から推察して、彼らが今、失職していることは明らかだ。

こうした状況から思い当たるのは、昨年12月初めまで実施された「清零(ゼロコロナ)政策」の期間中に、中国各地の街頭に設けられたPCR検査のブースで市民の検査にあたった人員や、臨時隔離施設で収容者に対応した要員である可能性が高い。それらの臨時施設は、ゼロコロナ政策の終了とともに、一斉に閉鎖されている。

このほかに、ゼロコロナ政策の期間中、白い防護服に身を包み、陽性者を強制隔離するなど、終始高圧的な態度で市民に横暴をふるった「大白(ダーバイ)」と呼ばれる防疫要員がいた。

市民は、文革時代に暴れまわった紅衛兵をもじって、この防護服の軍団を「白衛兵」と呼んだ。また、人を魔界へ誘う「白無常」と呼ぶ人もいた。いま「大白」も同じく、完全に失職している。

この「大白」たちも、臨時にかき集められた医療関係者も、中国共産党政権下において出現した社会現象であり、習近平氏が命じた「清零(ゼロコロナ)政策」のもとで与えられた「任務」に従事したことは間違いない。

彼らは皆、国家の求めに応じてその任務に就いたが、今では完全に見捨てられ、給料も得られないまま失職した。その意味では、彼らもまた、中共の無謀な政策に翻弄された被害者であると言えるだろう。

しかし、一般市民にすれば、この「大白」や狂気のような「PCR検査漬け」にまつわる嫌悪感は、まだ記憶に新しい。

そのため、投稿に寄せられたコメントには、給料が未支給である彼らを「可哀そうとは思わない」といった冷ややかな声が少なくない。

ほかにも、ゼロコロナ期間中に「武漢市民が(生活のために)仕事をさせてくれとお願いした時、この連中は何をしていた?まさに因果応報じゃないか」といったコメントも目立っていた。

3年続いた「ゼロコロナの悪夢」

日本の読者の皆さんは「鶏飛狗跳( jī fēi gǒu tiào、ジーフェイゴーティァオ)という中国語を、お聞きになったことがあるだろうか。

直訳すると「鶏は飛び、犬が跳ねる」。要するに「蜂の巣を突ついたような大騒ぎ」のことで、混乱を極めている様子を表す慣用句である。

ゼロコロナ政策下の中国の様子を、この「鶏飛狗跳」で形容する人は実際に多い。それは中国人にとって、思い出したくもない悪夢のような3年間であった。

防疫対策の一環として、街中にいる野犬ばかりでなく、室内で飼われていたペットの犬までが殺処分された。その方法はあまりにも残酷で、飼い主が臨時施設へ隔離中である時を狙って、勝手に家のなかへ入り、つかまえた飼い犬を棒などで殴り殺すのである。

それを実行したのは消毒作業をする防疫要員、つまり「大白」であった。

ドアの鍵がかかっていても「大白」は工具で破壊して、ずかずかと侵入してくるのだ。破壊した物品の補償は、もちろん全くない。室内は、散布した消毒液でびしょ濡れになる。全員ではないが、室内の金品を盗んでいく「大白」もいた。

彼らがドアを破壊したり、飼い犬を殴り殺す場面の動画も、ネット上に流出している。

「絶望」が人間にもたらした狂気

また、ゼロコロナ期間中に「高額紙幣(100元)を高いビルの上からまき散らす」という不可解なシーンが何回も見られた。

日頃、金銭への執着は凄まじいといわれる中国人が、なぜそんなことをするのか。

命の次に大切なお金をバラまくということは、子孫や親しい友人にも残そうとはしない。あるいは、残したい相手がすでに「いなくなった」からなのか。

いずれにせよ、これはよほど「絶望」していなければ、金銭好きの中国人にはとてもできない狂気の行為である。

習近平氏の命令で始まった、あの悪夢のような「清零(ゼロコロナ)政策」は、もはや過去の歴史として封印されようとしている。

しかし、コロナそのものの病禍とは別に、このあまりにも理不尽で無謀な政策のために死んだ人(餓死者や自殺者もふくむ)の遺族にとって、その憤りと悲しみは簡単に消えるものではない。

「国恥記念館」という自国の恥

SNS上には「国恥記念館」と呼ばれる投稿も拡散されている。ゼロコロナ期間中に「大活躍」した大白をはじめとする医療関係者が身に着けていた白い防護服が、なんとガラスケースの中に展示されているのだ。まるで「名誉ある軍服」のように、である。

よく見ると、何やら黒い字がたくさん書かれているようだが、これは誰かの名前だろうか。また別の場所には、当時つかった防護用のゴーグルや消毒液、PCR検査キットなど、ゼロコロナ期間中に使用されていた数々の「防疫用具」が、かつての栄光を示す物品として展示されている。

なお「国恥(こくち)記念日」は、中国の近代史のなかに実在する用語で、中国人にとって忘れがたい屈辱の日として記憶されている。

それは第一次大戦中の1915年5月9日。当時の日本が中国(中華民国)に突きつけた「対華21カ条要求」を袁世凱大総統が受諾した、その日を指す。

「それと同じレベルの、自国の恥だ」ということで、この投稿者は、ツイッター投稿のタイトルに「国恥記念館」という言葉を意識的に使ったらしい。

この展示施設の正式名は他にあるはずだが、ここに展示されている「白い防護服」などは国恥の最たるものだ、と投稿者は言いたいのだろう。

 

 

これは傑作!「くちばしマスク」

ゼロコロナ期間中、習近平氏にやたらと「忠誠ぶり」をアピールして、後日の出世を狙う地方政府の面々は、過剰ともいえる数々の防疫政策を導入していた。

しかし一般市民は、そのような理不尽な要求に振り回されながらも、苦しい毎日を懸命に生きていたのである。

例えば、ある地方政府は「食事中でもマスクを着用せよ」と要求した。馬鹿げた指示であることは誰の目にも明らかだが、そこは知恵者の中国人である。こんなユニークなマスクを発明した。

装着したままでも食事やPCR検査を受けることができる「くちばしマスク(中国語は鳥嘴型口罩)」である。この市民お手製の「優秀なマスク」が、ネットで一時話題となった。

なるほど、これなら食事中でも、いちいちマスクを着脱する必要がない。「これは便利だ」という称賛が多く聞かれたが、もちろん今となっては、中国の「国家科学技術進歩賞」ものと言われたこの発明品は用済みとなった。

 

「鉄クズの山」と化した隔離施設

用済みとなったのは「白服の防疫要員」や「くちばしマスク」だけではない。

「方艙医院」というものを、ご記憶だろうか。コンテナを積み上げたような、プレハブ建ての病院。いや、実際には医療を主とする病院ではなく、コロナ陽性者をとにかく詰め込んで徹底的に隔離してしまえ、という問答無用の「鉄の箱」であった。

この「方艙医院」が、武漢の郊外をはじめ、中国のあちこちに信じられないほどのスピードで大量に建てられた。その速さと実行力を「英雄的に」大宣伝したのが3年前であったが、今はもちろん、見るも無残な「鉄クズの山」になっている。

この「鉄の箱」に、どれだけの人数が押し込められ、そこからどれだけの人が運よく生きて出られたかは、全く公表されていない。

ゼロコロナ政策の終了後、「山東省が230億元(うち150億元が債券発行)を費やして建てた、大量の臨時隔離施設が廃止」とするニュースが、中国国内メディアでも取り上げられた。

「230億元」といえば、日本円の4500億円以上になるだろうか。つまり、山東省だけでも4500億円の鉄クズができたことになる。「このお金を、人民のために使えばいいのに」などと批判が殺到したが、全ては後の祭りである。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
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