戦争に備える中国と戦争に備えない日本

2023/06/03 更新: 2024/06/13

習近平の方針

世界情勢はウクライナでロシアと欧米が対立しアジアでは中国とアメリカが対立している。さらにウクライナとロシアの戦争はドローン極超音速ミサイルの性能評価が行われる実験場になっていた。ウクライナの戦場は新旧の兵器が使われるだけではなく、戦い方も第一次世界大戦から現代戦まで幅広く採用されている。

ウクライナは新兵器の実験場となり、次の戦争を想定している国には有益な戦争になった。実際に習近平には人民解放軍に不足したものを感じたと思われる。そこで習近平は国家の安全保障を担当する者たちを集めて「最悪のシナリオ」を想定して備えるように呼びかけた。

 

人民解放軍に不足しているもの

ロシアとウクライナの戦争は骨董品の兵器だけではなく新兵器も投入された。さらにネットワーク上のサイバー戦やドローンの実態が戦争で結果を出したことで、各国は戦争前に想定していた結果とは異なることを確認する。サイバー戦は以前から想定された結果と同じであったが、ロシアの兵器がウクライナ側に鹵獲・破壊されたことで危機が生じた。

人民解放軍の兵器はロシアから購入したものが多い。ロシア製兵器の性能がウクライナで明らかになったことで、人民解放軍の兵器は予想以上に脅威ではないことが明らかにされたのだ。その典型例が戦車・歩兵戦闘車などで、人民解放軍用に改造したとしても根本的な問題点は同じ。つまり人命軽視であり被弾に弱いことは改善されていない。

致命的なのは戦車の装甲に使われる複合装甲の実態。以前はロシアの戦車で使われる複合装甲は強力だとされたが実際は欧米の対戦車ミサイル・ロケット弾には無意味だった。増加装甲として爆発反応装甲が使われているが、この爆発反応装甲も欧米の対戦車ミサイル・ロケット弾には無意味だった。ロシア製の爆発反応装甲は欧米の対戦車ミサイル・ロケット弾のヒートチャージを無力化すると喧伝されていたが、実際は軽々と爆発反応装甲と複合装甲を貫いた。

ロシアは以前から戦車の上部を攻撃するトップアタック対策を進めていた。戦車の正面装甲は厚いが上部の装甲は薄い。だから戦車を撃破することを目的としてトップアタックの対戦車ミサイルが開発されたのだ。だがロシア軍はチェチェン紛争でトップアタックによる損害を認識し、欧米よりも先にAPSを用いたトップアタック対策を採用している。

ロシア軍はチェチェン紛争で無誘導のRPGロケット弾の攻撃で多くの戦車・歩兵戦闘車を失った。この戦訓からAPSを開発し、飛来する対戦車ミサイル・ロケット弾に擲弾を投射して破壊できると喧伝した。このAPSはトップアタックにも対応できるとされたので、APS・爆発反応装甲・複合装甲の三段構えはロシア製戦車を撃破することは困難だとされた。

実際にロシア軍がウクライナに侵攻すると三段構えは飾りだった。APS・爆発反応装甲は機能せず複合装甲は貫通されている。その後戦車の車体に搭載された弾薬に引火すると砲塔が吹き飛ぶことになる。

本家本元のロシア製戦車を見た人民解放軍はどうなるのか?中国でライセンス生産している兵器は使えないし、人民解放軍向けに改造しても根本的な問題点は解決できていない。これまで人民解放軍が費やした時間と金は無意味だった。これは明らかだから習近平は危機感を感じたのだ。

 

ドローンと極超音速ミサイルの理想と現実

結論から言えば、ドローンと極超音速ミサイルも予想とは異なり使えない兵器であることが判明した。ドローンは偵察用と攻撃用に分けられており、偵察用のドローンは想定された以上の効果が有ることが判明した。問題なのは攻撃用のドローンで、戦争前は有効な兵器と思われたが使ってみると結果が出ないことが判明した。

攻撃用ドローンは低コストなので大量に使えて有益だと思われていた。大量のドローンを使えば敵に損害を与えることができると思われていたが、使ってみると敵に迎撃されて目標に突入できないし、仮に突入できても破壊力が小さかった。

以前から大量のドローンを用いた波状攻撃は脅威とされ対策が開発された。この対策がウクライナで使われて有効であることが確認された。さらに新兵器でなくても古い兵器でドローンを迎撃できることも判明する。

ロシアは新兵器として極超音速ミサイル・キンジャールをウクライナで投入したが、最大マッハ10の速度で飛行し敵の迎撃を回避する能力を備えていると発表していた。だが2023年5月6日、ウクライナ空軍は供与されたパトリオットミサイルで極超音速ミサイル・キンジャールの迎撃に成功したと発表した。

その後もパトリオットミサイルは極超音速ミサイル・キンジャールを迎撃したと公表され、人民解放軍は保有する兵器が使えないことを直視する。人民解放軍も類似の極超音速ミサイルを保有している様だが、技術のルーツがロシアであれば無意味であることが暴露される。仮に人民解放軍独自だとしても、パトリオットミサイルに迎撃される可能性が有るのだ。

パトリオットミサイルは1990年代の航空脅威に対処する性能で開発された。その後は時代の変化に合わせてアップデートされたことで、最新の極超音速ミサイルにも対応できることが証明された。これでパトリオットミサイルを保有する国は人民解放軍が使う極超音速ミサイルに対応できることを習近平に突き付けた。日本も保有していることから、人民解放軍が保有する兵器では自衛隊と在日米軍に対抗できないことを意味している。

 

習近平の憂鬱と日本の問題点

習近平は人民解放軍が保有する多くの兵器が自衛隊と在日米軍に無力化されることを理解した。だから早急に対応することを求めたのだ。ここまでは自衛隊には良いことだが、問題点は日本の政治家なのだ。それは外国人でも簡単に基地周辺の土地を買えるので、自衛隊と在日米軍を監視可能。

このため兵器を用いた直接的な戦闘は人民解放軍には不利だが、日本の政治家を悪用すれば自衛隊と在日米軍の懐まで人民解放軍を移動できる可能性が有る。しかも日本は戦争の研究や計画に対して拒絶する政治家がいるのも事実。実際に自衛隊統合幕僚会議が三矢研究(1963)を行っていることが暴露されると当時の野党が噛み付いている。

このため中国はトップの習近平が号令を出せ早急に動くが、日本では政治家の反対で自衛隊の戦争研究は容易には進まない。今は人民解放軍が使う兵器の多くが使えないことが判明したが、改善されたら日本の危機が再開する。それまでに自衛隊が対応できれば良いが、三矢研究の様な反発が有れば進まないのが日本の問題点なのだ。

戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。
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