現代版「文字の獄」の幼児性 UFOキャッチャーで「ガチョウを捕まえるな」とは?=中国

2023/07/13 更新: 2023/07/13

タイトル冒頭の「文字の獄(文字獄)」とは、文書に使われた文字や語句をもとに反体制思想の者をあぶり出し、極刑をふくむ弾劾を加えるという、一種の粛清を指す。

「文字の獄」は中国史上に複数回みられた現象だが、特に有名なのは清代中期の康熙帝から雍正帝のころ、反清反満分子を摘発するために行われた「文字の獄」である。ただし1949年以降、共産主義の中国になってから起きた「海瑞罷官」なども、広義の意味では「文字の獄」にちかい。

いずれにしても、実態としては、文字の用法にかこつけた「こじつけ」や「揚げ足取り」の性格が強く、政敵を倒すための陰謀だとも言える。

余談ながら、いくらか似た事例を日本史に求めるならば、徳川家康が豊臣秀頼に難癖をつけた「方広寺鐘銘事件」が挙げられる。梵鐘の銘文「国家安康」が、家康の名前を分断している。「これは呪詛に違いない」と大御所・家康は激怒し、また激怒したように見せる演技によって豊臣家に一層圧力をかけていくのだ。

話が飛ぶが、日本のゲームセンターでよく見かけるクレーンゲーム、いわゆる「UFOキャッチャー」というのが中国の同様の遊戯施設にもある。

この頃、華人圏のSNS上では、中国のとあるゲーム店に置かれたUFOキャッチャーの景品が「ガチョウ(鵝鳥、鵞鳥)」であることを見つけ、これを声高に抗議する愛国市民と、店主との「口論記録」が話題になっている。

この愛国市民(男性)は、UFOキャッチャーの景品である「ガチョウ」がアームで取られる、つまりガチョウを捕まえることについて、その行為を「不適切だ」と主張して店に抗議の電話を入れたのだ。

なぜ、UFOキャッチャーでガチョウを取る行為が「不適切」なのか。日本の読者各位には、さぞ不可解に思われるであろうが、中国語圏の人にはそれが分かる。

ロシアは中国語で「俄羅斯」あるいは「俄国」と表記する。このロシアを表す漢字「俄」と同じ発音の文字が「鵝(ガチョウ)」なのだ。日本語でロシアを表す「露」は、現代中国語ではあまり使われない。

そこで鳥の「ガチョウ(鵝)」は、ロシアを指す隠語としてネット上でも愛用されている。たとえば、中国政府のプロパガンダに洗脳されて、プーチン支配下のロシアに心酔している「愛国市民」を揶揄する場合に、ネット民はよく風刺的に「你俄爹(あなたのロシアのパパ)」というのだ。

そこで話を戻す。ゲーム店の店主に電話をかけて猛抗議した「愛国市民」の言い分はこうだ。

「ガチョウをアームで取るという行為は、ロシア(俄)を捕まえること連想させる。したがって、今の親ロ路線をとる中国政府の立場と不一致であり、中ロ両国の友情を傷つけかねない。このような不適切なUFOキャッチャーの撤去を求める!」

もはや理性も正気も失っている「愛国市民」に対し、電話口の店主は、あきれながらも整然と反論した。

「ガチョウを捕まえるゲーム機が、反ロシアを連想しやすいだって? あんたは何を言っているのか。では、ガチョウ(の肉や卵)を食べることも、ダメなのか?」

この「愛国市民」は、実に多くの言葉を弄して勝手な持論を店主にぶつけ、最後には脅迫気味の言葉も残したが、そのほとんどがこのような低レベルである。

要するに「UFOキャッチャーを置けば、中ロ関係が悪くなる」という内容であり、その全てを本記事で紹介する価値はない。日本の読者各位にとっても読むだけ時間の浪費であるため、以下の翻訳は省略させていただく。

現代版「文字の獄」は、このように恐ろしくチャイルディッシュな思考しかないものだった。

ただしここに、別の意味で一つの興味がわいてきた。なぜ、この「愛国市民」のような無知で狂信的な人間ができてしまったのか、ということである。

中国問題専門家の姜光宇氏は、この動画を自身のSNSに転載するとともに、エポックタイムズの取材に対して、次のようにコメントした。

「邪悪な全体主義政権による洗脳のすごいところは、まさにここにある。(洗脳された)人々は、当局が無理に要求するまでもなく、自分たちで互いを監視し合うのだ。そして自ら積極的に、政権の手下となって行動するようになる」
 

 

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
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