駐中国日本大使館は26日、東京電力福島第一原発のALPS処理水の海洋放出をめぐって、中国本土から日本の個人や団体への嫌がらせ電話が行われていることについて、「犯罪行為だ」と中国語で非難した。
日本大使館は中国のSNSやX(旧ツイッター)などで「嫌がらせの対象が店舗であれば経済的な損失をもたらす可能性が高く、救急医療機関であれば人命に関わる問題だ」と指摘。中国政府には「厳重な法的措置をとるよう」求めた。
東京電力は24日、福島第一原子力発電所のALPS処理水の海洋放出を開始したと発表した。これに対して、中国政府は強烈な反発を示している。福島現地のメディアによれば、地域のホテルや小売店舗に千回もの中国本土を発信源とする複数の回線から入電があり、営業に支障が出ているという。
中国中央テレビや新華社通信などの国営メディアは、科学的な論拠を示さないまま、健康や海産物への影響を盛んに報じている。中国当局は25日、日本産の水産物の輸入を全面的に停止に加え、日本の水産物を使った食品の加工、調理、販売も厳しく禁じる規制の強化を発表した。
いっぽう、処理水の海洋放出は中国、韓国、米国など各国の原子力発電所でも行われている。福島第一の海洋放出は、国際放射防護委員会(ICRP)や国際原子力機関(IAEA)の査察や評価を受けて決定したものであり、継続的な経過観測が行われる。環境省が調査したトリチウム濃度の検査結果は公開されており、誰でも確認できる。
水産庁によれば、処理水放出後の25日朝に処理水放出口の5キロ以内で採取されたヒラメ、ホウボウからは、放出前と同様にトリチウムは不検出(検出下限値未満:10ベクレル/kg程度)だった。
「経済悪化の中、関心を外に」
中国による日本産海産物の禁輸について、日本の政治家や外交官らは相次ぎ、その不当性を指摘している。
国民民主党の玉木雄一郎代表は、「科学的根拠を欠く極めて政治的な対応であり、国際社会の理解を得ることはないだろう。日本国政府は科学的根拠をもって冷静に反論するなど毅然とした対応を取るべき。中国の国内経済が悪化する中、関心を外に向けさせようとする意図もあるのではないか」と論じた。
大阪府の吉村洋文知事は、全国の都道府県庁の食堂での福島産魚貝類の取り扱いや、中国に代替する輸出先確保への注力などを提案した。24日には「中国が買いたくないなら売らなければいい。最初は痛みを伴うが、長い目で見ればその方が安定する。望む方が弱くなる。生殺与奪の権を他者に握らせるな」と訴えた。
農林水産省によると、21年以降、中国は日本にとって最大の農林水産物及び食品の輸出相手国だ。中国向けの輸出額のうち、水産物は871億円、品目別ではホタテ貝が467億円、なまこ(調製)が79億円、かつお・まぐろ類が40億円となっている。
政府はALPS処理水の海洋放出に対し、国際的な認識の共有を目指してきた。5月のG7広島サミットでは、共同声明に「人体や環境にいかなる害も及ぼさないことを確保するためのIAEAによる独立したレビューを支持する」との文言が記された。さらに、欧州では8月3日、日本産食品に福島第一原発の事故後に日本産食品に適用してきた輸入規制を全廃した。
22日、日本の垂秀夫駐中国大使は中国の孫衛東外交部副部長からALPS処理水の海洋放出について申入れを受けたところ、中国が「科学的根拠に基づかない主張を行っていることは残念」と反論した。さらに海産物の禁輸について「EU諸国等が輸入規制の撤廃を進めている中で、中国のみが流れに逆行している」と指摘した。
外務省は24日と25日、中国に滞在する邦人に呼びかける文章を発表。処理水海洋放出以降、「不測の事態が発生する可能性は排除できない」として、日本語で不必要に大声で話さないこと、大使館訪問時は周囲の様子に注意を払うことなどを注意喚起した。
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