大ヒットした中国映画の決め台詞 「あなたには祖国がついている」は大ウソだった

2023/10/20 更新: 2023/10/20

2017年の中国映画「戦狼2(戦狼 ウルフ・オブ・ウォー)」は、中国映画史上、約1000億円ともいう最高額の興行収入を記録したとされている。

この映画にでてくる「ある台詞」に関連して、華人圏のSNSで広がったショートムービーに、いま非難が殺到している。その台詞とは「あなたには強大な祖国がついている」というものだ。

アフリカが舞台の「ヒューマニティな救出劇」

映画「戦狼2」の概要をいえば、派手なアクションシーンをやたらに盛り込んだ「愛国映画」である。

中国軍を除隊した屈強な主人公のレイが、アフリカの某国に渡ると、その国内で反政府組織による反乱が起きた。中国政府は、現地の華人救出のため海軍の艦艇を派遣するが、国際法の関係で動けない。

そこでレイは、中国軍に代わって、現地の中国人と一般人を救出するため「超人的な活躍をする」という、なんとも奇想天外な筋立てになっている。

中国が実際に経済侵略をすすめるアフリカを意識してか、物語の舞台を「アフリカの某国」に設定している。現地ロケは南アフリカ共和国で行われたという。現地のエキストラも多数使った、大掛かりな撮影だった。

完全なフィクションであるが、まことにヒューマニティ(人道的)な救出劇と見れば、確かに中国人観客には歓迎されるだろう。この映画を見る限り、中国は、現地の人々に喜ばれる「善玉」なのだ。

「強大な祖国がついている」の動画に非難殺到

その映画の終盤ちかくで、スクリーンには中国のパスポートが映され、次のような「観客むけのメッセージ」とも言える台詞がテロップで流れる。

「今の中国のパスポートは、世界中のどの国にでも行くことはできないかもしれない。しかし、戦争や災難に遭った時、あなたが世界のどこにいても、あなたを家(中国)に連れて帰ることができる。あなた(のバック)には強大な祖国がついている」

このテロップを流すためにこの映画を製作したか、と思われるような、いかにも中国らしい愛国プロパガンダと言ってよい。

このなかの「あなた(のバック)には強大な祖国がついている」の決め台詞は、すぐに流行語になり、中国人の日常会話にも使われる言い回しになった。

ところが、この台詞に関連して、華人圏のSNSで広がったある動画が「これこそが最大のデマであり、嘘である」として、いま非難が殺到している。

問題の動画は、おそらく中国の愛国主義者が「外国人の役者」を金で雇い、場所がイスラエルという設定で「愛国寸劇(?)」を演じたもののようだ。動画のなかで、中国人と思われる若い男性が「中国のパスポート」を手に、こう言う。

「私は中国人だ。これは中国のパスポートだ!」

下手な発音の英語で「I am chinese china passport」と自信満々に告げると、彼を取り囲んでいた外国人が「お手上げだ」とでも言わんばかりに、両手をあげ、恐怖で後ずさるという内容のものだ。

 

(パスポートをかざし、英語で「I am chinese china passport」と告げると、彼を取り囲んでいた外国人が「お手上げだ」とでも言わんばかりに、恐怖で後ずさった)

「戦狼2」こそ、最大のデマだった

この動画を転載したネットユーザーは「これを見たら(あまりの不快感で)3日間は飯が喉を通らない」とコメントしている。

同じように、この動画に対する非難は殺到しているようだ。ある海外在住の華人からは「いざとなったら、自分は日本人か韓国人だと言う。中国人だ、と言ったら一巻の終わりだ!」といったコメントも寄せられた。

そのほか「中国を離れてから気づいた。あの『戦狼2』こそ、最大のデマだったのだ」というコメントもある。というのは、この臭気のつよい愛国寸劇が、中国人の愛国心に火をつけた政府推薦の映画「戦狼2」をマネたものであることは、誰の目にも明らかだからだ。

「戦狼2」のラストシーンでは、中国のパスポートとともに「海外でどんな危険に直面しても、あなたのバックには、強大な祖国がついていることを覚えておいてください」というメッセージがスクリーンに大きく映し出された。

以来「あなたのバックには、強大な祖国がついている」は、いまや華人であれば誰もが知る「名ゼリフ」になっている。

これとともに「今の中国のパスポートは、世界中のどの国にでも行くことはできないかもしれない。しかし、戦争や災難に遭った時、あなたが世界のどこにいても、あなたを家(中国)に連れて帰ることができる(现在的中国护照,还不能带你去世界上任何一个地方。但是,当战争和灾难来临时,它能从任何一个地方接你回家!)」という、自国のパスポートの「宣伝」も有名になった。

つまり、愛国寸劇に使われた中国のパスポートが、まるで「葵の御紋」のような神通力をもつのは、まさに映画「戦狼2」の影響によるのである。

「助けに来てくれる?」そんな訳がない

しかし、いざ中国人が「海外で危険に直面した時」の中国政府のやり方は、愛国映画に見られるような「官製の宣伝」とは真逆なのだ。もとより助けに来てくれる訳がなく、捨て置いたままにされるのは間違いない。

中国政府は、現在戦火にさらされているイスラエルに取り残された華人(自国民)に関しても、完全に沈黙している。イスラエル在住のある中国人女性が、現地の中国大使館に電話をかけて助けを求めたが「自分で何とかしろ!」と言われただけだ。

中国政府は、現地の死傷者や負傷者数も統計せず、自国民を退避させることもしない。映画「戦狼2」では、華人救出のため中国海軍の艦艇がアフリカ沖まで派遣されたが、それは完全に虚構の世界のことである。

実際、イスラエルに滞在する中国人の状況について、国内では全く報道せず、関連情報を意図的に抑え込んでいることがわかっている。

中国問題専門家の王赫氏は「危機が発生した時、中国共産党は海外の華人に何の緊急援助も提供しない」と指摘し、次のように話した。

「中国のパスポートがあなたを家(中国)に連れて帰る、は全部ウソだ。(新型コロナの)パンデミック発生時もそうだった。海外にいる中国国民は、祖国に帰ることが許されなかったではないか」

海外在住の中国人にとって「映画のような救出劇」は、もとより期待すべきものではないようだ。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
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