今年の冬は、なぜか「軍用コート(軍大衣)」が中国の民衆、特に若者や学生の間で人気アイテムになっている。
レザージャケットやダウンジャケットが普及する以前の80年代、つまり30~40年前の中国では、冬の防寒着として比較的安くて温かい「軍用コート(軍大衣)」や「軍用の防寒帽」が民間で広く使われていた。
これらは、軍人でなくても一般の店で買うことができた。男女とも普段用として使っていたが、もちろん当時、それらはファッションではなく、寒冷な中国の北部地方における冬の実用品であった。
それが今年、以前の実用着であった「軍用コート」は、若者の新たなファッションとしてブームとなり、ダウンジャケット市場を圧迫している。
高級なダウンジャケットについては、このごろ「ボシデン(BOSIDENG、中国大手ダウンメーカー)のダウンジャケットの平均価格が1600元(約3.3万円)に上昇した」あるいは「国産ダウンジャケットが7000元(約1.4万円)にまで高騰した」といったトピックが、相次いで中国SNSのホットリサーチした。
しかし、高級品には手が届かない中国の若者たちは、さっそく高価なダウンジャケットの「代替品」を見つけたようだ。その代替品のなかでも、軍用コートやアウトドア用ジャケットが最も人気だという。
とくに軍用コートは、数十元から高いものでも数百元ほどで買える。日本円でいうと、千円以下の値段から高くても数千円というところだろうか。高級ダウンジャケットの1/10ほどという、手の届く範囲で買える冬のアイテムということで、若者や学生の間で特に人気のようだ。
綿花やフェルトが詰まった軍用コートは、ダウンジャケットに比べればかなり重いが、なにしろ安くて買いやすく、しかも温かい。デザインに対する感覚も、時代遅れの恥ずかしさではなく、むしろ発想を逆転させた「斬新な懐古趣味」というところに新たな価値観を見出したものと言える。
なかでも、遼寧省や河北省といった中国北部の大学生たちが、そろって「軍用コートを着て、教室で授業を受ける様子」を映したショートムービーが拡散され、話題を呼んでいる。学生たちは「軍用コートは、とても温かい」と、満足気に口をそろえる。
中国最大のECサイト「タオバオ(淘宝)」に出店するある経営者によると、「今年は、以前よりも多くの学生が軍用コートを買っている。特に(中国の)北部地方からの注文が多いようだ」という。
中国の電子商取引(EC)大手である京東集団(JDドットコム)のデータによると、今年の「ダブル11(独身の日に合わせたセール期間、10月20日~25日)」に、軍用コート調のデザインをしたコットン衣料の売上が、昨年同期より約181%も増加したことがわかった。
今年の冬、軍用コートの売り上げが例年より大幅に増えたことは、中国に広く見られる普遍的な現象として、多くの中国メディアも報じている。
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