中国社会を揺るがした9つの事件・事故で振り返る激動の2023年

2023/12/31 更新: 2023/12/31

中国にとって2023年は、独裁政権をめぐる事件・事故が多発した年だった。 清朝末期の混乱期を思い起こさせるという声もある。各分野の事件・事故を通して、中国の一年をまとめてみよう。

本一冊

10月16日、中共当局が『崇禎:勤政的亡國君』というすでに出版された書籍を、全て回収する措置を取った。

この本のタイトルと表紙の広告文言が、明朝のラストエンペラーである崇禎帝(すうていてい)になぞらえて、現在の習近平を風刺したものと当局が見て、このような措置を取ったとする分析が多い。

この本の表紙の広告文には「昏招連連歩歩錯(繰り返して失敗を重ね)」「越是勤政越亡国(政事に勤めれば勤めるほど国を滅ぼした)」とある。さらに「崇禎帝が、どのように一歩一歩、自身を追い詰めていったのかが分かる」というフレーズも書かれている。

明朝最後の皇帝である崇禎帝(1611~1644)は「勤勉に政事につとめたこと」で知られているが、実際には「無理な政策を無闇に押し付け、猜疑心が強かったこと」で有名だ。

彼は結局、反乱軍に追い詰められ、紫禁城の北側にそびえる煤山(景山)の槐(エンジュ)の木で首を吊るしかなかった。この本の表紙のデザインには、崇禎帝の「崇」の字に首を吊ったロープが加えられている。

習近平は2期目から失政を繰り返した。それらは全て、習近平自身を追い詰める結果をもたらした。習近平が自ら推進した数々のプロジェクトはすべて「不良プロジェクト」となった。

今、習近平は自らの地位を3期連続させることには成功したが、党内ではますます孤立している。国内政治はあちこちに危機が潜んでいるばかりか、外交上も前例がないほど孤立してしまった。 彼は今、国内でも国外でも敵に囲まれている。

漫画の一幕

12月4日、中国の月刊誌「雜文選刊」編集部が2024年1月1日から休刊すると発表した。

12月4日に発行された「雑文鮮刊」最終号の表紙には「指明方向」という漫画が掲載されている。巨大な手が指さす方向へ、多くの人が一列に並んで走るが、その先は崖っぷちで、人々は次々と「奈落の底」に落ちてしまう。

評論家たちは、この漫画は習近平を皮肉っていると見ている。

中共メディアは、いつも習近平が「進むべき方向を示す」と宣伝しているからだ。彼は民営経済の発展、雄安新区の建設、貧困撲滅、米中関係の発展、中国特色大国外交、一帯一路建設、中国・欧州関係の発展、人類運命共同体の建設、グローバル「人権ガバナンス」の構築、国家サッカー代表の発展、「一国二制度」を推進する、などの方向性を示した。

しかし、習近平の指導の下、中国共産党は現在、前例のない危機に陥っている。つまり、命じられて進んだ先が「奈落の底」だったのである。

文(詞)一編

6月30日、共産党理論誌「求是」は、習近平が昨年3月1日、中央党校において青年幹部養成クラスの開講式で行った演説の全文を公開した。

この演説で習近平は、次のように述べた。

「もし我々が育てた人材が皆、マルクス主義と共産主義を信奉せず『中国の特色ある社会主義』の旗を掲げなければ、東欧の激変、ソ連共産党の崩壊、ソ連解体のような『故国不堪回首月明中』の悲劇が起こるだろう」

「故国不堪回首月明中」という有名な一句は、日本語で解釈すると「すでに滅んだ故国を、敢えて回顧するには堪えない。ただ月明かりの中に、その情景を見るのみだ」となる。

中国の五代十国時代(907~960)とは、唐が滅んでから北宋が成立するまでの間に、中国の各地で短命の地方政権が生まれた時代を指す。その五代十国時代の終盤において、江南地方に40年足らずの王朝が生まれた。かつての唐王朝の末裔を自称して、国号を唐(南唐)とした。

その南唐の最後の皇帝が李煜(りいく)である。李煜は詩文や芸術には秀でていたが、政治的な能力は皆無の君主であった。南唐が北宋に敗れ、敵軍の捕虜となった李煜であるが、彼が生きている間に、亡国への思いを込めてうたった詞「虞美人」の一節が「故国不堪回首月明中」である。

李煜は、北宋の開封に連行され、そこで捕虜として暮らしながら、しばしば「故国」を懐かしんでは涙を流し、詞(ツー)という詩文を書いた。李煜は978年、誕生祝いに下賜された酒を飲み、もだえ苦しんで死ぬ。

これについては、北宋の第二代皇帝・太宗が、捕らわれの身でありながら故国を思う詩文を書きつづる李煜の存在を危険視し、彼を毒酒で殺害したとも言われている。

習近平が演説のなかで(そうならない「戒め」としてではあるにせよ)亡国である南唐の歴史を引用したことは、中共にとって不吉な兆候と見られている。

今日、中国共産党のなかには、誰一人としてマルクス主義や共産主義を信奉する者はおらず、社会主義の旗を掲げる人間などもいない。

中共が本当に信奉するのは権力であり、崇拝するのは金である。権力とお金が得られなければ、誰も中共のために命を捧げる人間はいないからだ。

高官一人

2023年6月、習近平が自ら抜擢し、重用した官僚で、最年少の閣僚級高官だった秦剛外交部長が、理由もなく「失踪」した。これは非常に象徴的な事件である。

2022年10月、習近平は当時駐米中国大使だった秦剛氏を第20回党大会で中央委員会委員に抜擢、起用した。

その後、その年の12月30日に外交部長に、そして2023年3月12日に国務委員に昇進させた。

習近平が秦剛外交部長を重用した時は、きっと秦剛氏が自身に忠実で「マルクス主義と共産主義を信奉し、中国の特色ある社会主義の旗を掲げている」と信じていたのだろう。

しかし、秦剛氏は外交部長になって6か月後、国務委員になって3か月後の6月26日に突然「失踪」した。

そして7月25日、外交部長を解任され、同じく10月24日には、国務委員から解任された。秦剛氏は中共創党以来、最も短命な外交部長・国務委員となった。

7月16日から、秦剛氏の死のニュースがオンラインで広まり始めた。

12月6日、米国の政治専門メディア「ポリティコ」ヨーロッパ版は、情報筋の話として、秦剛氏とロケット軍の最高幹部が中共の核兵器関連の機密を欧米の情報機関に漏らしていたと伝えた。報道によると、秦剛氏は7月末、共産党高官が入院している北京の軍病院で死亡したという。自殺か、拷問による死亡であるかは不明だ。

これまで中共当局は、秦剛氏が死亡したという外部の噂に何の反論もしていない。

習近平が信頼していた秦剛氏が裏切られたとすれば、習近平は今後、誰を信頼できるだろうか。 もし秦剛氏が「死亡」したのなら、残った中共の高官のなかで「安全な人間」がいるだろうか。

都市一つ

2023年は、中国共産党が香港で「香港国家安全維持法」を施行(2020年6月)し、「一国二制度」に代わって「一党独裁」を採用してから3年目の年である。

今年、香港の株式市場は世界で最も悪い株式市場に転落した。香港の区議会選挙の投票率は30年ぶりに最低を記録し、香港行政長官は26年ぶりにAPEC首脳会議から除外され、ムーディーズは香港の信用格付けを「ネガティブ」に格下げした。

香港国際金融センターは、投資家の信頼を失った。2018年の香港のIPO(企業公開)規模は2865億香港ドル(約5兆1700億円)で世界1位であったが、2023年1~10月には316億7300万香港ドル(約5700億円)に縮小した。今年1~3四半期のIPO金額を基準に見ると、香港証券取引所の資金調達は22年ぶりに最低を記録している。

英国は香港を「世界3大金融の中心地」にするのに100年以上を要したが、中国が香港を「国際金融センターの遺跡」にするのにかかった時間は5年足らずだった。

かつて「東洋の真珠」であった香港は、もはやその輝きを失っている。

漢字一文字

中共の中国に関して、今年の漢字を選ぶなら、私は「つまづき、転倒する」という意味の「跌」を推薦したい。 家価、株価、所得、輸出、投資、為替レート、雇用、出生率など、国民生活に関連するすべてのデータが「跌」つまり転倒している。唯一、増加しているのは、中共政府の債務である。

株式市場を見ると、12月20日、上海証券取引所指数は2902ポイントまで下落した。3千ポイントはおろか、2900ポイントも守れなかった。

負債も同様だ。ある経済学者はこう評価した。

「中央・地方政府の負債114兆元(約2200兆円)に国有非金融企業の負債が220兆元(約4300兆円)。これに金融システムの負債56兆元(約1100兆円)を加えると、合計390兆元(約7600兆円)で、400兆元(約7900兆円)に迫る」

これは、中国のGDPの3倍を超える数値だ。中国を大企業に例えるなら、年間売上高が120兆元の企業において、負債が400兆元に達するとしたら、この企業は破産寸前ではないだろうか。

実際、中国政府の高騰する債務は、中国経済を破綻寸前まで追い込んでいる。

男子学生一人

2月2日、江西省・上饒市・鉛山県など省・市・県の警察当局は合同記者会見を開き、致遠中学校の高1年生の胡鑫宇(こきんう)事件に関する「調査結果」を発表した。

発表によると、15歳の高校生である胡鑫宇さんは、2022年10月14日に学校から行方不明になり、2023年1月28日、学校ちかくの山林で遺体となって「発見」された。

江西省・上饒市・鉛山県公安機関の合同対策本部は、「調査訪問、現場調査、検死、物証鑑定などを通じて、胡鑫宇さんが自ら首を吊り自殺した」と発表した。

この結果について多くの疑問が指摘されている。

事実解明に乗り出した一部の関係者は、多角的な調査と直接比較実験を通じて、当局の調査結果に決定的な欠陥があることを発見し、20種類以上の強力な証拠を確保し、胡鑫宇さんの死は自殺ではなく他殺であると結論づけた。公安機関が「自殺」の証拠として提示した「自殺現場」が捏造されたものだというのだ。

そうしたなかで、胡鑫宇さんは「中共による強制臓器摘出犯罪の犠牲者になったのではないか」という声も少なくない。

歌一曲

中国で10年ぶりに再登場した中堅歌手、刀郎(52)の新曲「羅剎海市(らせつかいし)」が旋風を巻き起こしている。7月19日に発表されてから20日間で累計100億回以上の再生回数を記録するほど、中国の老若男女を魅了した。

「羅剎海市」は数多くの記録を打ち立て、社会的な文化現象として浮上し、この流行は海外にも伝わった。

ところで「羅剎海市」の人気の秘密は何だろう。筆者は、その歌詞が多くの中国人の心を動かしたと見ている。

歌のタイトルは、清朝の小説家・蒲松齢の小説集『聊斎志異』中の「羅剎海市」という短編から取ったものであり、歌詞は小説の主人公・馬驥が嵐に遭遇して到着した「羅刹国」を背景に書かれている。

羅剎国とは、どんな国か。一言で言えば、善と悪、正と邪、美と醜が入れ替わった国だ。

性格が良く能力があればあるほど疎まれ、醜く卑劣であればあるほど用いられて高い官位に就く。従順な外見を持つ馬驥は、石炭を塗って自分を醜く仮装し、初めて人との付き合うことができた。

この歌のサビは「しかし、石炭の粒は生まれた時から黒いもので、どんなに洗っても汚いものだ」というもので、それはつまり、白と黒が 逆転し、嘘に満ちた「羅刹国」を嘲笑しているのだ。

これは、まさに共産党支配下の中国の現実を、そのまま描いたと見ることができる。これが「羅剎海市」が一般大衆の心を動かした理由だろう。

ウイルス

COVID-19は、2019年12月に武漢で発生して以来、今まで中国から消えたことがない。

昨年末から今年初めにかけて、中国本土でコロナが再び大規模に拡大し、多くの人が死亡した。

昨年9月に再び広がり始めたコロナ感染症は、今も中国で爆発的な勢いを見せている。中国各地の病院は、昼夜を問わず患者で溢れている。北京、天津、上海、大連、瀋陽、重慶、河南省、河北省、山西省などは特に感染が深刻であり、その結果として、多くの地域の葬儀場や火葬場が再び過負荷状態になった。

今回のコロナ大流行により、死亡者はさらに増えるだろう。

おわりに

最近、一部の専門家は2024年に中国最大の「ブラックスワン」事件が習近平に起こる可能性があると予測している。

習近平は、11年間の政権の間にあまりにも多くの人を敵に回した。江沢民派、共青団(共産主義青年団)派、元老派、「紅二代」と呼ばれる共産革命時代の幹部の子女、改革派、また中下級の官僚、さらには習近平陣営にいる投機家まで、誰もが「習近平に変事が起こるのを待っている」のだ。

権力が一人に集中すればするほど、その政権は、権力者の突発的な変節に脆弱になるものだ。 習近平に、何らかの変節が起きれば、政権自体が崩壊する可能性がある。

王友群
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