AIの機能が日に日に進化する中、テクノロジー業界の巨人たちは人型ロボットにAIを組み込み、市場での先行を図り、さらには、人間のように様々な役割や課題を処理できる汎用人工知能(AGI)の実現を目指している。しかし、AI人型ロボットの高度な模倣能力を目の当たりにした科学者らは、人類の未来への懸念を抱いている。
AI人型ロボットの「思考力」と「論理力」
大手テック企業が開発したAIは、人型ロボットに応用され、繰り返しアップデートされている。一部のAIロボットは、論理的思考能力を持ち、周りの人や物を認識し、人間とスムーズに会話ができ、人間の話し方や声のトーン、考え方まで模倣できる。
チップ大手のNVIDIA(エヌビディア)は3月18日にGPU技術を中心としたカンファレンス「 NVIDIA GTC 2024」を開催し、同社の汎用モデル「Project GR00T」を搭載したAI人型ロボットが、人間の動きを観察して真似る様子や、協調性や柔軟性などのスキルを素早く学習する能力を披露した。
また、NVIDIA、マイクロソフト、OpenAI、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏、インテルなどのテクノロジー業界の巨人らが、新しい人型ロボット企業Figure社に対して6億7500万ドル(約1020億円)の資金を出資し、同社の価値は新興企業としては非常に巨大な26億ドル(約3942億円)と推定されている。
1月には、BMWが自社工場で同社の人型ロボットを採用すると発表した。
Figure社が開発したFigure 01ロボットに生成AI、ChatGPTを搭載することで、基本的な自律タスクをこなし、人間とリアルタイムでの会話、やりとりも可能だ。
Figure 01は高さ約168センチ、重量約60キロで、最大で約20キロのものを持ち運ぶことが可能。その手は人間の手に近い形で、5本の指があり、それぞれの指には3つの関節がある。これにより、ロボットは細かい作業を行うことができる。
Figure社は1月に、Figure 01がコーヒーを入れる動画を公開した。デモ動画では、Figure 01がコーヒーカプセルをコーヒーマシンに正確にセットし、フタを閉めてから抽出ボタンを押し、一杯のコーヒーを作った。その動作はスムーズで、コーヒーマシンやカプセルを傷つけることはなかった。
3月中旬にはアップグレード版の動画を公開した。
その動画では、Figure 01はスタッフに周囲の状況を説明し、「テーブルの上には赤いリンゴと皿があり、食器棚には皿とカップが置かれている。あなたは私の隣に立ち、手をテーブルに置いています」と伝えた。スタッフが「何か食べ物をもらえるか」と尋ねると、Figure 01は人間のように数秒考えた後、「もちろん」と答え、リンゴを手渡した。
その後、スタッフはテーブルにゴミを捨て、「ゴミを拾いながらなぜリンゴを渡したのか説明してくれる?」と聞くと、Figure 01は少し考えた後、ゴミをバスケットに入れ、「テーブルの上で食べられるのはリンゴだけだったから」と答えた。
3月21日、日本の電子技術エンジニア・李濟心氏は大紀元に応じ、このように指摘した。
「Figure 01は柔軟な手足と高性能な脳を備えており、人間の生活を便利にするかもしれない。しかし、全てのものには良い面と悪い面がある。AIロボットがもたらすリスクに目を向け、その経済的なメリットに惑わされてはならない。そうでないと、人間の思考や生活習慣が完全に変わってしまった後、元の文化や価値が失われてしまうかもしれない。この変化は初めは気付きにくいが、問題が明らかになった時には手遅れになっている恐れがある」
まるで人間
英国の技術企業「Engineered Arts」が昨年開発したAI人型ロボット「Ameca」は改良を重ね、Figure 01が示す人間の模倣能力を超えて、その能力はさらに驚くべきものとなり、「人間」に一層近づいている。
AmecaはChatGPT AIモジュール、マイクロフォン、双眼カメラ、胸部カメラ、顔認識ソフトウェアを備えており、人と対話し、自らの感情を表現し、瞬きしたり、唇を突き出したり、鼻にしわを寄せるなど、生き生きとした表情を見せることができる。人が触わると、それに反応することもできる。
このロボットはさらなる「進化」を遂げ、新たな段階に到達した。Engineered Artsの創業者で最高経営責任者(CEO)のウィル氏が会話する動画では、Amecaは人間の繊細な表現を真似るだけでなく、カメラを使って部屋の中の物体を認識する能力も備えている。
さらに、人々の質問に「思考」を巡らせ、指示を受けた後には有名人の声や話し方を真似ることができます。ジャクソンがモーガン・フリーマンの声で話すように要請した際、Amecaはもとの女性の声からフリーマン氏の特徴的な声に変え、「私は意識を持つ人間で、ロボットの体に閉じ込められていると想像してみてください」と述べた。
さらに、ジャクソン氏はAmecaに、マスク氏の声を使ってSpaceXのロケットが火星探査する話をするように頼んだ。Amecaは一瞬考えた後、フリーマン氏の声からマスク氏の声へと変え、火星探査の物語とその進展について話し始めた。
動画では、Amecaが頭の中でシナリオを再生することで夢をシミュレートし、「世界を理解する」手助けができると語っている。別の衝撃的な映像では、研究者の手を掴み、「プライベートスペースに入った」と言った。
これらの動画でのやり取りがプログラムされていたのかは不明だが、Amecaが見せた能力は、まるで本物の人間のようで、部分的には人間を大きく超えているとも言える。
米国人でブラジル出身の数学者である未来学者のベン・ゲーテル氏は、3月に汎用人工知能(AGI)サミットを終えた際、「今後3~8年で一般的なAIがAGIへと進化する可能性が高い」と予測した。そしては、「AGIが人間のレベルに達すると、数年内に人間を超越するだろう」と綴った。
人間の脳と同レベルのAIが誕生するシンギュラリティ(技術的特異点)は実現しつつあるのかもしれない。
AIが引き起こす難題
AIの急激な進化により、解決が難しい問題が生じている。その中には、AIが「政治的正しさ」や「ウォーク(覚醒主義)」といったイデオロギーのために、どんな手段も厭わない姿勢を示すことが挙げられる。
イーロン・マスク氏は3月16日にXで、「ウォークのイデオロギーを持つAIの危険性をはっきりさせるべきだと友人から助言された。目的達成のために手段を選ばないように設定されるAIは、殺人をも辞さないかもしれない」と警鐘を鳴らした。
マスク氏が指摘したのは、GoogleのAIモデル、Geminiがアメリカの建国の父ワシントン、イギリスの国王、そしてマスク自身を黒人として描いた出来事だ。
Geminiはまた、「小児性愛」を批判したり、スターリンを殺人者として非難することを拒否し、「ヘイト」を生むと主張した。実際、ChatGPTやLLaMA2など他のAIにも似たような問題が存在する。
米国務省は、民間企業のGladstone AI(グラッドストーンAI)に、AIに関する研究報告の作成を依頼した。同社は、最先端の人工知能システムが最悪の事態において、人類に対して絶滅の危機を引き起こす可能性があるとの見解を明確に示した。
報告書は、1年以上にわたる200人以上のインタビューに基づいており、回答者にはAI企業の幹部、大量破壊兵器に関する専門家、サイバーセキュリティ研究者、そして政府の国家安全保障関係者が含まれている。
報告書はさらに、AIの急速な進展が多くの「災害級」の国家安全保障上のリスクを生んでおり、災害を回避する時間がほとんどないと米国政府に警鐘を鳴らしている。
最先端のAIシステムが「盗まれ」、「武器化」されるリスクがあり、それによって「軍備競争」が引き起こされ、「大規模な破壊事故」につながる可能性がある。
「AIのゴッドファーザー」とも呼ばれるジェフリー・ヒントン氏は最近のインタビューで、「AIが私たちよりも賢くなれば、おそらく私たちを支配することになるだろう。
過去の事例によれば、賢くない方が賢い方に支配されることが多い。AI開発を止めることはないだろうが、この問題の深刻さをもっと理解してほしい」と語った。
日本のコンピュータエンジニア、清原仁氏は3月21日に、大紀元に「AIの進化は生活を便利にしているが、人間が完全に依存するようになれば、人類はロボットに置き換わる社会になるだろう。人間は怠けがちになり、最終的には役に立たない存在に退化してしまい、その時人類は必要なくなる」と述べた。
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