2024年は中国経済にとって重大な転換点となりつつある。資金不足が深刻化する中、中国の金融研究所の鞏勝利・研究員は、膨大な政府債務、大型インフラプロジェクトの中断、異例の50年物国債の発行など、複数の危機的な状況を分析した。ウォール街の米投資家やファンドの中国撤退が相次いでいることも相まって、中国経済の先行き不安が広がっている。
資金不足現象その1:中国の債務がGDPの約3倍に迫る
鞏勝利氏は、「2024年には特に資金不足に注意が必要であり、その主な原因の一つが中央政府と地方政府の債務にある」と指摘している。
中央政府や地方政府、不動産業界の債務が積み重なり、前例のない債務危機に陥ったていることが度々話題となっている。米投資銀行ゴールドマンサックスによると、2022年の中国当局の債務は156兆元人民元に達したとされる。
さらに、中国国家金融・発展実験室(NIFD)の報告では、2023年の中国の債務(家庭、企業、政府含む)がGDPに占める割合が287.8%に達し、前年比13.5%増で過去最高を更新したとされている。
台湾の経済学者である吳嘉隆氏は、「資金源を確保することが債務解決の鍵だが、ウォール街の撤退により中国共産党も資金を確保できない状況にある。中央財政の危機が深刻で、複数の危機が同時に解決を迫られている」と指摘している。
資金不足現象その2:主要都市での大規模インフラプロジェクトが停止に
鞏勝利氏は、「中国の資金不足の現状は、約3分の1の省や自治区で見られる大規模プロジェクトの停止によっても明らかである」と述べている。
昨年末に、中国国務院は、2024年までに水供給や電力供給、暖房などの民生プロジェクトを除き、省部級や市レベルでの新規の大規模なインフラプロジェクトの着工を制限する方針を発表した。
具体的には、遼寧や吉林、貴州、雲南、天津、重慶などの主要都市12省市でプロジェクトが延期または中止された。停止されたプロジェクトは、高速道路や空港の改修・拡張、都市鉄道建設などだ。これらの省に対しては、「債務リスクを中低水準に抑える」ように指示が出されている。
ゴールドマン・サックスなどの著名な投資銀行によると、地方政府の融資機関を含めた場合、中国の地方政府債務は約94兆元にも上ると推計されている。
資金不足現象その3:中国共産党による50年債の発行
鞏勝利氏は、中国による50年物の超長期国債の発行は、300億元を超える規模で行われる予定であり、「このような超長期債の発行は非常に珍しいと述べた。
「例えば、現在30歳の人がこれを購入した場合、実質的に80歳での返済となる。これは世界で初めての超長期50年債である」と指摘。
先月24日には、中共の財政部が2023年の第46号国債業務に関する公告を発表し、230億元の発行が予定されており、期間は50年、クーポンレートは3.27%となっている。
今年の「両会」では、政府が今後数年にわたり超長期特別国債の発行を計画していることが発表された。
台湾南華大学の教授である孫国祥氏は、「中国経済が今後も下降し続ける場合、この超長期特別国債政策は間違いなく将来世代に負担を残すことになる」と警鐘を鳴らしている。
資金不足現象その4:不動産業界の深刻な資金繰り難
鞏勝利氏は、中国の不動産業界が、深刻な資金繰り難に直面していると指摘している。中国の不動産開発大手、万科企業が資金不足に陥っていることは明らかであり、深刻なものとなっている。「万科の現在の借金額は約70億から80億ドルに上り、これを返済できなければ、中国の不動産業界にとって破滅的な影響を及ぼし、市場のさらなる下落を招く可能性がある」と鞏勝利氏は述べている。
先月25日には、中国人民銀行(中央銀行)の潘功勝総裁が、中国の不動産市場にいくつかの前向きな兆候が見られると発言した。このことについて、鞏勝利氏は「国務院が不動産市場の再開を宣言したことは、新たな動向である」と述べている。
しかし、潘氏は「現在中国が直面している状況を考慮すると、不動産業界を救済できるかどうかは未知数であり、救済できなければその原因は資金不足にある」と指摘。
「不動産企業は借金に依存して運営されており、この長期的な借金による悪循環は、今後も続く可能性がある。その結果、中国の産業が現在抱えている借金問題に対して、新たな希望が見出せない状況にある」
中国の大手および中小の不動産業者の借金は、国のGDPを大きく上回る規模に達している。2021年1月から2023年8月24日までの間に、30社以上の大手不動産業者が経営危機に直面した。さらに、約2000万戸の住宅が未完成のまま残されており、これらを完成させるためには4400億ドル(約66.4兆円)以上の資金が必要とされている。
資金不足現象その5:M2が300兆元に迫る
鞏勝利氏によると、2月のM2通貨供給量(マネーサプライ)はすでに300兆元(約6240兆円)に迫っている。これは、中国が深刻な資金不足にあることを示している。
最新の金融データによれば、2月末時点での中国のM2は299兆5600億元(約6272兆5149億円)に達し、前年同期比で8.7%増加している。この数値は米国の2倍、日本の3.7倍に相当している。
M2は一般に、貨幣供給量の指標として用いられる。信用貨幣(銀行券・預金通貨)の発行量が増えるほど、債務の総量も大きくなる。
中国のM2は加速度的に増加している。2000年末には13兆元(約270.4兆円)だったM2は、2013年3月には100兆元(約2080兆円)に達した。2020年1月には200兆元(約4160兆円)を超え、2024年2月には300兆元に迫っている。極端な水準になっている。
鞏勝利氏は、「中国は事業展開を広げすぎ、通貨や資金を大量に投入してしまった結果、多くのプロジェクトが資金を必要としている。そのため、現在の中国の資金不足は歴史的な最高点にある」と指摘した。
鞏勝利氏は、「最低限、中国の資金不足は年間で三分の一程度におさまると見られるが、通貨発行を躊躇している。これ以上の通貨発行はできない状況である。現在の通貨発行量が歴史的な高水準にあるためだ」とした。
そのうえで、「総じて、2024年を分岐点として、中国はこれまでで最も資金不足に苦しむ時代に入る」と付け加えた。
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