トランプ政権は、アメリカ国内のエネルギー生産拡大を進めているが、その取り組みが石油・天然ガスの採掘にとどまらず、「重要鉱物」と位置付けられた資源の採掘・精錬の拡大にも及ぶとみられる。
3月4日、トランプ大統領は米議会合同会議で演説し、「アメリカ国内で重要鉱物とレアアース(希土類)の生産を劇的に拡大するため、歴史的な措置を講じる」と表明。今週中にも新たな施策を発表すると予告したが、詳細な発表はまだ行われていない。
国内生産拡大へ、大統領令を相次ぎ発布
今回の方針は、トランプ氏が発出してきた複数の大統領令の延長線上にあり、政権発足初日の1月20日には、「アメリカのエネルギーを解放する」と「国家エネルギー緊急事態を宣言する」という二つの大統領令を発布し、この中でトランプ氏は、
「敵対的な外国勢力から、アメリカの重要資源供給を守る能力が低下している」
とし、国内生産の強化を求めた。
さらに、2月には銅の生産拡大を目的とした新たな大統領令を発布。この中でトランプ氏は、「アメリカの銅供給チェーンには重大な脆弱性があり、採掘・製錬・精錬の各段階で、外国への依存が深刻化している」と危機感を示した。
こうした措置の目的は、国内生産を促進するため、採掘許可手続きを迅速化し、連邦政府の補助金や税制優遇措置を導入することにある。さらに、輸入品への関税措置を通じて国内産業を保護する狙いもある。
アメリカの鉱物輸入依存、依然高水準
国家エネルギー分析センターの事務局長マーク・ミルズ氏は、アメリカの重要鉱物生産拡大について
「極めて適切な目標であり、むしろ遅すぎた」
と指摘。アメリカの輸入依存度を下げる効果が期待されると述べた。
全米鉱業協会が2023年に発表した報告書によると、2022年時点でアメリカは50種類の重要鉱物のうち12種類について「100%輸入依存」だったし、さらに31種類の重要鉱物(うち14種類はレアアース)については輸入への依存度が50%以上だったと言う。
こうした中、トランプ政権の新たな大統領令を見越し、コロラド州の鉱業会社ニオコープ(NioCorp)は、ネブラスカ州での「エルククリーク重要鉱物プロジェクト」の建設準備ができていると発表した。このプロジェクトでは、アメリカの国防に不可欠なニオブ、スカンジウム、チタン、レアアースの採掘が予定されたのである。
ニオコープのマーク・スミスCEOは声明で、
「アメリカは、中国やBRICS諸国への危険な依存を減らすために、採掘する用意がある」
と述べた。(BRICSとは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカを中心とする政府間経済協力体で、近年加盟国が拡大している)
同社はトランプ政権に対し、許可を受けた採掘プロジェクト向けの低金利融資、国防総省からの資金提供、採掘許可手続きの簡素化、訴訟期間の合理的な制限設定などを要請している。
なお、ニオコープによると、アメリカでは鉱山の開発から操業開始までの期間が平均29年に及ぶ。これは世界的に見ても長く、「ザンビアに次ぐ遅さ」だという。

中国依存の問題
法律事務所キング&スポルディング(King & Spalding)の分析によると、「重要鉱物」とされる基準は以下の三点に集約される。
- 経済や国家安全保障に不可欠であること
- サプライチェーンの混乱に対して脆弱であること
- 半導体、先端電池、再生可能エネルギーの製造に不可欠な材料であること
同社の報告書によれば、対象となる鉱物にはコバルト、黒鉛、リチウム、ニッケル、プラチナ、ネオジムやジスプロシウムなどのレアアースが含まれ、これらの鉱物は電池、触媒コンバーター、水素燃料電池、磁石、ジェットエンジン、誘導システム、人工衛星、潜水艦、通信技術など、さまざまな製品に使用されている。
しかし、米内務省が実施した2025年の地質調査によると、重要鉱物44種類のうち、30種類の生産を中国が支配していて、さらに、中国は最近、一部の鉱物の対米輸出を制限した。
「2024年12月、中国はアンチモン、ガリウム、ゲルマニウムの輸出を禁止し、2023年12月に導入された特定の戦略物資・技術に対する輸出規制を拡大した。これらの輸出制限はアメリカのみに適用された」
と、同調査は報告している。
中国は鉱物の採掘だけでなく、精錬分野でも世界的な支配力を持つ。
「精錬施設は鉱物産業に不可欠だ。現在、アメリカで採掘されたレアアースでさえ、その多くは中国を含む他国で精錬されている」
とエネルギー分析センターのマーク・ミルズ氏は指摘している。
ロイター通信によると、トランプ政権は、戦闘機、潜水艦、弾薬の製造に必要な鉱物を確保するため、米軍基地内に精錬施設を建設する計画を検討していると言う。
鉱物生産のプロセスと環境負荷
鉱物の生産は、いくつかの段階を経て行われる。ブルッキングス研究所の2022年報告書(ロドリゴ・カスティージョ氏、ケイトリン・パーディ氏共著)によると、その流れは以下のとおりである。
- 採掘:鉱床から原鉱を掘り出し、不要な岩石や他の物質を取り除く。
- 輸送:採掘された鉱物は、主に船で精錬所へ輸送される。世界の精錬所の大半は中国に集中している。
- 精錬・加工:精錬所で化学処理が行われ、超高純度の微粒子へと精製される。
- 製造:精製された鉱物は、カソード、アノード、コレクターなどの材料となり、最終的にスマートフォン、エネルギー貯蔵装置、電気自動車(EV)用バッテリーの部品となる。
マンハッタン研究所が2020年に発表した報告書によれば、EV用バッテリー1台の製造には、以下の鉱物が必要とされる。
- リチウム:約25ポンド(約11.3kg)
- コバルト:約30ポンド(約13.6kg)
- ニッケル:約60ポンド(約27.2kg)
- 黒鉛:約110ポンド(約49.9kg)
- 銅:約90ポンド(約40.8kg)
- 鋼鉄、アルミニウム、プラスチックなど:合計400ポンド(約181.4kg)
さらに同報告書は、EVバッテリー1台分の鉱物を確保するために、約9万ポンド(約40.8トン)の鉱石を処理する必要があると指摘している。
「その過程で、掘削・移動させる土砂量は20万~150万ポンド(約90~680トン)にも及ぶ。つまり、EVバッテリー1台を製造するために、平均で50万ポンド(約226トン)以上の土砂を掘削・移動しなければならない」
と報告書は述べている。
環境団体と先住民族の反対
バイデン政権下では、2022年のインフレ抑制法や2022年の国防生産法に基づく大統領決定を通じて、風力タービン、太陽光パネル、EV用バッテリー、送電網に必要な鉱物の採掘・利用促進のための補助金や税制優遇措置が導入された。しかし、バイデン政権は同時に、環境保護団体や先住民族団体と協力し、これらの鉱物の採掘自体を禁止する措置も取られた。
2023年には、当時のデブ・ハーランド内務長官が、ニューメキシコ州チャコ文化国立歴史公園周辺10マイル以内での採掘・掘削を禁止した。この決定を受け、当時の土地管理局局長トレイシー・ストーン=マニング氏は、「先住民族の声が公共の土地管理に反映されるための重要な一歩だ」と公式声明を発表した。
さらに、2023年にはバイデン政権がミネソタ州アイアンレンジの22万5000エーカーにおける採掘を禁止した。この地域には、タコナイト(低品位鉄鉱石)、銅、ニッケル、コバルト、プラチナなどが埋蔵されている。
また、2024年には、ハーランド氏がアラスカ州の公共土地2800万エーカーでの採掘・掘削を禁止。その理由として、「この土地はアラスカ先住民族にとって文化的・経済的に価値がある」と述べた。
新規鉱業プロジェクトへの反発
トランプ政権下であっても、新たな鉱業プロジェクトは環境団体や地元住民からの強い反発に直面する可能性が高いと言う。
米会計検査院の2023年の報告書によると、環境保護庁のデータをもとに、「アメリカの河川の40%、湖の50%が、放置された鉱山によって汚染されている」と指摘されている。
また、会計検査院は、ニューメキシコ州北部のクエスタ鉱山が鉛やヒ素などの有害物質で地下水を汚染し、周辺の村(クエスタ村)に深刻な影響を与えたと報告。浄化費用は約10億ドル(約1500億円)と見積もられた。
米国における鉱物生産への新規投資を阻むもう一つの要因として、重要鉱物の価格下落が挙げられる。需要が供給を上回ると予測されているにもかかわらず、近年、これらの鉱物の価格は低下している。この背景には、風力・太陽光発電への移行や、EVへのシフトといった世界的な取り組みが影響している。
2024年のアメリカ地質調査所の調査では、アメリカ内で製造されるリチウムイオン電池用の重要鉱物が、40%から60%下落したことが明らかになった。
また、質調査所は「コバルト、リチウム、ニッケルなどの電池材料の価格は、中国をはじめとする主要生産国の供給過多により下落した」と指摘した。
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