米国では4月、中国企業の運営する動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」について事実上の禁止法案が可決し、バイデン大統領が署名した。一方、日本では韓国企業との資本関係が問題視されるメッセージアプリ「LINE(ライン)」で大規模な情報漏洩が起きたにもかかわらず、政府の対応は後手に回っている。
TikTok禁止法は、同アプリを通じた中国共産党へのユーザーデータ提供や、若年層への悪影響を懸念する超党派の議員らが推進した。法案は、TikTokに対し米国事業の売却か撤退を迫る内容で、中国共産党の国家情報法に基づく情報提供義務にも言及している。
バイデン政権も連邦議会議員、TikTokの潜在的リスクは看過できないとの立場だ。商務省は3月、TikTokを安全保障上の脅威とみなし、政府機器からのアプリ削除を各省庁に指示している。
米国では超党派でTikTok禁止法案が支持された。リベラル派として知られる民主党のジョン・フェッターマン上院議員も賛成票に投じており、TikTokは米国の表現の自由に便乗しているとして「彼らの傲慢さには驚くばかりだ」と批判を展開。民主党でさえ、TikTokの脅威を明確に指摘し、中国共産党の影響力排除を主張している。
海外アプリ セキュリティに緩慢な日本
いっぽう、情報問題を抱える海外アプリに対して日本の姿勢は緩慢だ。約9600万人の日本国内ユーザーを抱えるLINEの一部情報管理や資本関係を韓国企業に委ねてきた。
LINEの普及率の高さは地方公共団体でも際立つ。2021年度の政府調査によると、政府機関は78%、地方公共団体は64%が使っている。
同3月には、中国の委託先技術者が利用者の個人情報にアクセスできる状態になっていたことが発覚。総務省は当時の運営会社に対し、管理体制や利用者への説明不足を指摘し行政指導を行った。さらに韓国のデータセンターで画像や動画、決済情報なども管理されていたことが判明。
こうした情報漏洩が発覚しているLINEに対して、総務省は行政指導を累次にわたり発動。今年4月にようやく、韓国IT大手ネイバーとの資本関係見直しを要請した。
LINEを運営するLINEヤフー株式会社は5月8日に東京都内で開いた記者会見で、ユーザー情報漏洩問題について、年間150億円をセキュリティ対策に投じるとともに、韓国ネイバー社との委託関係を「ゼロに」見直して、内製化を進めることを明らかにした。
LINEヤフーとネイバーの両社の関係は、LINEの前身となるNHNJAPANがネイバーの子会社だった2011年のサービス開始時から続く。現在は中間持ち株会社のAホールディングスを通じ、ネイバーとソフトバンクが50%ずつ出資する間接的な関係にある。
総務省からのネイバーへの出資比率引き下げ見直しの要求に、韓国政府からは「差別的扱い」との反発もあるが、国民情報の安全を重視する姿勢を貫く必要がある。日本の国会は、LINEをめぐる議論は活発とはいえない。
情報セキュリティに対する米国の危機感の高まりとスピード感ある対応に比べ、日本政府の後手な姿勢が浮き彫りになった形だ。デジタル時代の安全保障環境の変化を踏まえ、日本は機動的な法整備や、ユーザー情報の保護とデータ主権の確立が急がれる。
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