急速な中国発の電子商取引(EC)の海外展開により、廉価な商品が大量に先進国の市場に流入し、不当競争をもたらしている。その背景には、輸出業者への税制的優遇や金銭的支援といった中国共産党当局の手厚い支援だ。経済学者はこのような行為について「悪性競争」につながると指摘する。
2022年以来、中国の通販サイトは国境を越え、世界各国で事業を展開した。いっぽう、欧米諸国では関税回避やダンピング、環境問題、知的財産権への侵害、労働搾取への加担など、あらゆる問題を引き起こしている。
中国共産党の機関紙「新華社」の2023年11月末の報道によると、過去5年間で越境電子商取引の対外貿易に占める割合は1%未満から約5%に上昇した。2023年1月から9月にかけて、越境電子商取引の輸出入規模は1.7兆元(37兆7857億円)に達し、前年比14.4%増加した。
特に、中国のEC大手「拼多多(pinduoduo)」傘下のTemuは中国国内での販売モデルを海外で再現し、圧倒的な低価格を実現している。Temuアプリは2022年9月に米国でリリースされると、2023年には米国で最も多くダウンロードされたiPhoneアプリとなった。2023年4月には欧州に進出し、ECC KÖLNの最新調査によれば、ドイツの消費者の32%がTemuで商品を購入していたという。
なぜ、Temuの商品は廉価なのか。発送側が途上国で受取側が先進国である場合、送料は先進国が負担するという国際郵便条約を利用しているのも一因だ。Temuで購入した商品を日本で受け取る場合、日本側の郵送業者が負担している。いっぽう、製品に釣り合わないほどの激安価格するには、この条約だけではないようだ。
独立経済学者の李恒青氏は、中国当局からの補助金を挙げる。
2014年以降、越境ECに関する項目は11年連続で中国当局の「政府活動報告」に盛り込まれてきた。2015年からは、中国当局は165もの越境EC試験区域を設定し、試験区域内ではEC事業者に対して付加価値税と消費税の徴収を免除したほか、所得税についても優遇政策を設けた。
2018年の米中貿易戦争の際には、中国共産党はトランプ政権の中国商品に対する関税引き上げに対抗するため、国内輸出業者の輸出税を免除した。
米国サウスカロライナ大学エイケンビジネススクールの謝田教授は「免税や減税、輸出税の免除、または輸出税の還付などは、全て政府補助金の一形態だ」と指摘した。
「小物の生産過剰問題はそれほど深刻ではなく、影響もそれほど大きくない。しかし、自動車や電気自動車の生産能力過剰は非常に深刻な問題だ。なぜなら、初期投資が大きく、生産規模も大きいからだ」
経済学者の黄大衛氏は取材に対し、国際慣習では輸出に対して優遇措置や補助金を付けることは許されているが、それによって他国の利益を損なうことは許されていないと指摘した。他国の産業を破壊するほどの補助金は、他国の産業を破壊する、過当競争の「破滅的競争 (cut‐throat competition)」につながるとし、国際社会における公平競争の精神に反するため制裁を受けることがあると語った。
中国当局が越境ECを支援するもう一つの目的は、過剰な生産能力を輸出することにあると李恒青氏は指摘する。中国では不動産業の低迷により、住宅価格が大幅に下落。国内ではデフレが蔓延し、余剰生産力を他国に輸出しなければならない状況に陥っている。
杭州や深圳のような越境ECが集積する地域では、地方政府も優遇措置を打ち出している。杭州は昨年2月、越境ECの輸出企業に対し、最大200万元の助成金を提供すると発表。ソーシャルメディアや検索エンジン、ライブ配信を利用して自社ブランドを宣伝する企業には、宣伝費用の25%を上限に資金支援を行う。
さらに、企業が海外に進出して注文を獲得できるようにするため、越境ECの展示会に参加する企業には展示費用の70%を上限に資金支援を行っている。深圳市は2023年、越境EC起業補助金として最大45万元を無償提供すると発表している。
前出の謝田氏は、中国当局の越境EC支援は確かに自助努力かもしれないが、実際には隣国を価格均衡を侵しており、他国を害するものだと論じた。
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