アングル:「脱アベノミクス」は困難か、どうなる衆院選後の経済政策

2024/10/23 更新: 2024/10/23

[東京 23日 ロイター] – 27日の投開票へ終盤戦に入った衆議院選挙は、報道各社の情勢調査で与党の劣勢が伝えられ、自民党の単独過半数割れにとどまらず、石破茂政権が勝敗ラインに設定した自公で過半数を維持できない可能性も浮上している。来夏に参院選を控える中、政府や与党、市場関係者からは積極的な財政出動と金融緩和で景気を支える「アベノミクス」的な経済政策を脱するのは難しいとの見方が出ている。

<メインシナリオは>

「霞が関、永田町では財政出動圧力が強くなるというのがコンセンサス。石破首相も参院選に向けてお金で国民の気持ちをつなぎとめるしかないということになるのではないか」と、自民党関係者は話す。

22日までに国内の主要報道各社が実施した衆院選の世論調査では、いずれも公示前に247の議席数を保有していた自民党が単独過半数233議席を維持できるか不透明と予測。情勢調査が現実となれば、自公は旧民主党に政権交代を許した2009年以来の歴史的大敗を喫することになる。

クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフ・エコノミストは「政治基盤が弱い石破政権は『経済あっての財政』の方針をしばらくは維持する」とみる。引き締め方向に向かおうとしている金融政策についても、政府内から「日銀の利上げはもともと難しい環境にあるが、さらに難しくなりそう」(内閣府幹部)との声が聞かれる。

歳出拡大の兆候はすでに出ている。石破首相は選挙戦の第一声で「去年は国費13兆円、事業総額37兆円だったが、それを上回る大きな補正予算を国民の皆様方に問い、国会の審議をたまわり成立させたい」と大型の補正予算の編成を明言。さらに22日、首都圏で相次ぐ強盗事件を受け、補正予算で防犯体制の拡充を検討する方針を明らかにした。

公明党の石井啓一代表も物価高対策として低所得者世帯に10万円程度の給付が必要との考えをテレビ番組で示しており、 経済官庁の関係者は「経済対策は最低15兆円だが、この選挙情勢なので20兆円程度に膨らむ可能性十分ある」と解説する。

石破首相が年内決着を掲げる防衛費増額の恒久財源確保にも影を落としそうだ。政府は22年末に23─27年度の防衛費を総額43兆円と定め、最終年度までに法人・所得・たばこで総額1兆円を増税する案を盛り込んだが、自民党内の反対で実施時期は定まっていない。財務省関係者は「防衛族の中で石破首相は例外的に増税に理解があったが、自民単独過半数割れならば、党内の増税慎重論に配慮せざるを得ない」と懸念する。

<自公でも過半割れの現実味>

公明党と合わせた与党では過半数を維持するというのが現時点のメインシナリオとみる向きが多い一方、自公で過半数を割り込む可能性も浮上している。朝日新聞は20日、自民が50議席程度減らして単独過半数を割り込み、自公合わせても過半数を維持できるか微妙な情勢と報じた。

与党関係者によると、自民党内ではすでに国民民主党との連携を模索する議論が出ている。自民党の森山裕幹事長は18日のテレビ番組で「公明党と連立で過半数をしっかりとることが最初の目標だ」としつつ、「政策的に一致することができれば、会派を同じくして日本の発展のために一緒に頑張るということも大事なことだ」とし、第3党との連携を完全に否定はしなかった。

当の国民民主党は連立に参加する意向を否定しているが、大和証券の末広徹チーフエコノミストは「国民民主が議席を伸ばしてキャスティングボードを握る流れとなれば、国民が主張する歳出拡大と金融緩和継続が意識されやすい」とみる。 野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストも「国民民主との連立とならば、よりリベラル色の強い政策となりそうだ」と予測する。

<自民単独で過半数なら>

報道各社の情勢調査からは自民党が単独過半数を維持する可能性は低そうだが、考え方の近い野党、無所属の議員を選挙後に取り込んで実現するシナリオはある。自民党は派閥の政治資金パーティーを巡る問題で、12人の候補者を公認しなかった。愛知学院大学総合政策学部の森正教授は「当選した『裏金議員』を公認することでぎりぎり単独過半数を確保する可能性もある」と語る。

山梨大学大学院総合研究部の藤原真史准教授は、自民単独で過半数になれば「石破政権として相当な信認を得たことになり、アベノミクスの金融緩和や財政出動の見直しの加速が可能になる」と話す。クレディ・アグリコル証の会田氏は、財政規律の目標を現在の基礎的財政収支(プライマリーバランス)から利払費を含んだ収支黒字化に変化させるなど財政再建に舵を切るとみる。「12月の自民党の税制調査会で石破政権の増税路線が明確になる」と予想する。

(竹本能文、杉山健太郎 編集:久保信博)

Reuters
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