なぜ戒厳令は発令されたのか 尹錫悦大統領が弁明 野党の国政秩序破壊を示唆

2024/12/14 更新: 2024/12/14

12月12日、尹錫悦大統領が国家の安全保障を脅かす中国共産党のスパイ活動に直面して戒厳令を弁護する全国演説を行った。戒厳令は単なる統治行為であり、反乱ではないと大統領は主張し、国家の安全を守るための必要な措置であると述べた。これに対して野党が反対の意を表明した。

尹錫悦氏、反乱の疑いを否定

尹錫悦大統領は韓国の最大野党「共に民主党」が国会に新たな弾劾動議を提出する前に、テレビで全国向けの演説を行った。

演説で尹大統領は、就任以来、支持率や任期、地位を気にしたことがなく、大統領職を守るためだけなら、国家の憲法秩序を乱す勢力に対抗したり、緊急戒厳を宣言したりする必要は全くなかった。また約300名の兵士が国会に配備されたのは秩序を維持するためであり、国会を解散させたり麻痺させたりするためではないと説明した。

そして戒厳を宣言した理由について「共に民主党」に警告を発するためだったと弁明し、同党を反国家勢力と呼び、国会を「自由民主主義的憲法秩序を破壊する怪物」と非難した。

尹大統領は野党が議会を利用して高官を弾劾し、来年度の政府予算案を破壊し、北朝鮮に同情的な立場や政策を取っていると指摘。野党が自分を弾劾しようとする本当の理由について、「共に民主党」党首の李在明氏が有罪判決を受ける可能性から逃れ、早期に大統領選挙を実施するためではないかと疑問を呈した。

尹大統領は野党に対し、自身の問題を隠すために国家体制を破壊し、国政を掌握しようとしていると非難し、これが真に国家の憲法秩序を乱す行為であると指摘。

また戒厳令は統治行為であり、検察の調査対象にはならず、反乱にも当たらないと強調。「最後の瞬間まで国民と共に戦う」と述べ、戒厳令によって驚愕し、不安を感じた国民に謝罪すると述べ、「私の国民に対する忠誠心を信じてほしい」と訴えた。

しかし一方の韓国の「共に民主党」のタスクフォース責任者、金民錫(キム・ミンソク)氏は、尹錫悦氏が極右支持者に「親尹」暴動を扇動していると非難し、尹錫悦氏の発言が「極端な妄想」であり、「国民に宣戦布告している」と述べた。

2024年12月12日、韓国の尹錫悦大統領がテレビ演説を行い、人々が画面上で尹錫悦氏が頭を下げる様子を見ていた。(Anthony Wallace/AFP via Getty Images)

 

野党の行動が国家と社会の安全を脅かす

尹錫悦大統領は、中国や北朝鮮などの外国勢力のスパイ活動にさらされる中、野党の行動が国家と社会の安全を脅かしていると指摘している。

演説6月に中国人3名が釜山で無人機を使い、米軍の空母と韓国の軍事施設を撮影していたことが判明した際、現行法では外国人のスパイ行為に対する処罰規定がないため、刑法のスパイ罪を改正しようとした。

その時、尹大統領は野党から強い反対を受けた。野党は前政権の文在寅政権時代に国家情報院の防諜権限を剥奪し、「国家安全保障法」の廃止も試みてきた。

また中国製の太陽光発電設備に対して、韓国の森林環境を破壊していると警告した。これに対して中国外交部は「誇張した報道」に対して断固として反対するとの声明を発表している。

野党の親北朝鮮な対応についても触れ、尹大統領は野党が国家と社会の安全を脅かしていると述べた。

北朝鮮が違法な核兵器やミサイルの挑発、GPS妨害、気球を使った宣伝、韓国労働組合総連盟(KCTU)に関連するスパイ事件を行っているにもかかわらず、野党はこれらの行為に同情を示すだけで、対応に努める政府を批判した。

また北朝鮮の違法な核開発に対処する際に、野党が国連に対して北朝鮮への制裁を解除すべきだと主張した。

その他にも2023年後半、北朝鮮が国家選挙委員会の機器にハッキングしていたことが判明した際、国家選挙委員会が検査を拒否している。その際、尹大統領は国防部長官に選挙委員会のコンピューターシステムを検査させている。

 

野党により政府が麻痺状態に陥り、多くの調査予算が削減

尹錫悦大統領は、過去2年半の間に野党が選挙結果を認めず、何度も大統領の弾劾や辞任を要求してきたと述べた。一部の政府官僚は過ちを犯していないにもかかわらず弾劾され、任期中に調査のために職務停止となり、長期間公務を遂行できず、政府が麻痺状態に陥ったと説明している。

尹大統領は「国民議会は野党によって支配され、自由民主主義を支持するのではなく、自由民主主義の憲法秩序を破壊する怪物となり、これは国家の危機である」と述べた。

また尹大統領は来年度の検察官と警察の特別調査費の予算がゼロに削減されたことを指摘している。野党は金融詐欺や弱者を狙った犯罪、薬物捜査、防諜のための重要な予算のほか、薬物犯罪やディープフェイク犯罪に対する予算も大幅に削減したとされている。

尹大統領は、野党が自身に対する調査を妨害するだけでなく、国民生活に影響を与える薬物捜査や組織犯罪の捜査も妨害していると述べた。さらに、野党は自らの特権を維持するために国民議会の予算を増加させたと付け加えた。

韓国経済が危機的状況 日米同盟と三カ国協力が再び崩壊

尹錫悦大統領は、韓国経済が危機的な状況にあると述べ、野党が経済成長力を破壊しようとしていることが、提案された来年度の予算削減から明らかであると指摘した。

野党はチェコ共和国への原子力技術輸出支援も含め、原子力産業の資金を90%削減し、また、次世代原子力技術開発の資金もほぼ完全にカットした。

さらに、基礎科学研究、量子技術、半導体、バイオテクノロジーなど将来の成長分野の予算も大幅に削減し、日本海ガス田掘削計画の予算も事実上取り消した。

その他、若者の雇用支援プログラム、弱者家庭の子どもへの支援、保育補助金、また中小企業のイノベーション成長基金の育成資金、1兆ウォンの災害緊急準備基金、パンデミック対応のためのワクチン開発と関連研究開発予算も削減した。

尹大統領は、韓国が現在、野党による専制と暴力で政府が麻痺し、社会秩序が混乱していると述べ、行政と司法が正常に機能していないと述べた。

尹大統領は社会秩序が麻痺し、崩壊しているから戒厳令が布告されたのであり、行政および司法機能を崩壊させているのは社会の混乱だとしているとし、戒厳令の目的は、野党の反国家的かつ破壊的な行為を国民に警告し、阻止すること、さらに自由民主主義の崩壊を防ぎ、正常な国家機能を回復することだと述べた。

実際、12月4日に戒厳令が解除された後、民主党は監査院長と検察総長に対する弾劾手続きを延期すると発表し、一時的な戒厳令のニュースだったが一定の効果を持ったと思わせた。

しかし、2日後、野党は弾劾手続きを継続した。これは彼らが戒厳令宣言の正当な理由を消し去ろうとする方法であった。

尹大統領は、米韓関係が我々の安全保障と経済の基盤であると強調し、米国や日本との同盟、三か国協力が再び崩壊する可能性があると警告した。

尹錫悦氏は、この国家危機の中で国家を守り、政府を正常化するために、大統領が法的権限の範囲内で緊急戒厳措置を講じたことは非常に政治的な決定であり、国会の解除要求によってのみ解除できるものであると説明し、国会の戒厳解除要求はすぐに受け入れたと述べている。

野党が尹錫悦氏の声明に反対

野党の「共に民主党」の金民錫氏は、党が12月14日に尹錫悦大統領の弾劾動議を可決するために努力を続けると述べた。

先週の弾劾案は、与党「国民の力」の全議員が退席し、投票をボイコットしたため、失敗した。

共に民主党と他の小規模野党は国会で192議席を持ち、3分の2の多数議席(300議席中200議席)まであと8票不足している。

尹錫悦氏が12月3日に宣言した戒厳令は、韓国が40年以上戒厳令を実施していなかった状況を打破した。最後に戒厳令が実施されたのは1980年代である。

戒厳令はわずか6時間で解除され、大規模な暴力事件や死傷者は発生しなかったが、韓国の政治界に混乱を引き起こし、尹錫悦氏の退陣を求める抗議活動が展開された。

現在、「国民の力」党内でも意見の対立が見られる。

曾子衡
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