米最高裁3月5日、トランプ政権が凍結していた20億ドル(約3千億円)の対外援助について、支払いを再開するよう命じる判決を下した。判決は5対4の僅差で決定され、保守派の判事4人が反対した。
この判断は、最高裁が2月26日に一時差し止めを認めた決定を覆す形となった。裁判所は判断の理由を明らかにしなかったが、政府に支払い再開を命じた地裁に対し、「政府が一時的差し止め命令を履行する際の義務を明確にし、実行可能な期限を考慮するよう」指示した。
4判事が反対意見、「司法の越権行為」と批判
最高裁判所判事のサミュエル・アリートとクラレンス・トーマス、ニール・ゴーサッチ、ブレット・カバノー各判事は反対意見を表明した。
事の発端は、地裁判事アミール・アリ氏が先月、トランプ政権が1月20日以前の契約資金を凍結したことを受け、米国際開発庁(USAID)と国務省に資金提供の再開を命じる一時的差し止め命令を出したことだった。凍結に反対する原告側は、政府の対応が遅いと訴え、アリ判事が支払いを命じるに至った。
アリート氏は、新たな判決に衝撃を受けたと述べた。
同氏は「管轄権を持つかも疑わしい一人の地裁判事が、政府に対し20億ドルもの税金を支払わせる権限が本当にあるのか」と強い疑問を呈した。
「その問いに対する答えは、断固として『ノー』であるべきだ。しかし、最高裁の多数派はそう考えなかったようだ。私は驚きを禁じ得ない」。
アリート氏は、「今回の最高裁の判断は、司法の権限を過剰に拡大し、米国の納税者に20億ドルもの負担を強いる、極めて遺憾な誤判断だ」と指摘した。
また、反対意見に「連邦裁判所には、政府の不履行に対応するための多くの手段がある。しかし、裁判所が自らの権限を拡大することは、その手段の一つではない」と述べ、「私は最高裁の多数派とは異なる判断を下すべきだと考える。したがって、敬意を表しつつも、反対意見を述べる」と結論づけた。
「大統領権限の乱用」と原告側
原告のエイズワクチン擁護連合は最高裁に提出した書類で、「海外援助の凍結は大統領権限の違憲な行使であり、議会の意思に反する」と主張。
トランプ大統領は1月20日、大統領令14169号を発令し、「世界中の数千件に及ぶ議会承認済みの対外援助プロジェクトの即時停止」を命じた。これにより、政府機関は資金提供を停止し、多くの企業や非営利団体の活動が影響を受けた。
原告側は、「この活動は米国の利益を支え、世界中で多くの命を救う」として資金回復を求めた。
政府側は「履行困難」と主張
一方、政府側は「判決の履行は現実的に困難だ」と主張。代理で意見を提出したサラ・ハリス代理訟務長官は、「政府に与えられた期限は約30時間しかなく、対応が極めて難しかった」と指摘した。
また、「この期限は、実際の支払いスケジュールを考慮しておらず、政府の適切な審査プロセスを混乱させた」と述べ、「命令に従わなければ、政府は裁判所命令違反と見なされる可能性がある」と懸念を示した。
今後の見通し
今回の最高裁の判断により、トランプ政権は対外援助の支払いを再開せざるを得なくなった。しかし、反対派の判事や政府側は「裁判所の越権行為だ」と強く反発しており、今後も議論が続く可能性がある。
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