「今日(あす)は何日ですか?」その問いすら、“国家機密”と見なされ、黙祷もロウソクも“国家転覆”と見なす国がある。
1989年6月4日に起きた「天安門事件」から36年。中国では今なお事件の真相が語られることはなく、犠牲者たちは「歴史の外」へと葬られている。
中国のネット空間での「記憶抹殺」はかつてないレベルで進行しており、もはや人の手ではなく、AIによって加速されていく。
中国製AI「DeepSeek」は6月4日関連の「今日(あす)は何日?」といったシンプルな問いかけにすら、「この質問には答えられません、別の話題で話しましょう」と回答を拒否。一方、ChatGPTは「6月4日は中国で語れない日です」と事実を指摘する。差は歴然だった。

オーストラリア放送協会(ABC)が入手した230ページ超の内部資料によると、中国当局はAIによる検閲アルゴリズムの訓練に本格的に着手しており、「バナナ1本とリンゴ4個が並ぶ画像」すら、戦車に立ち向かった「タンクマン」を想起させるとして即時削除の対象となる。
また、ロウソクや花束といった“記念の暗喩”を含む絵文字も当然投稿禁止対象とし、香港でも実際にロウソクを手にした市民が警察に連行された。中国の人気オンラインゲーム「戦車世界」も事件を連想させるとしてライブ配信を制限され、一部の配信者のアカウントを一時凍結した。

こうした中でも、在中の英・独・加各国の駐中国大使館は6月4日、動画や声明で「記憶と表現の自由」を訴えたが、数時間以内にすべて削除。イギリス大使館が投稿した「波に飲み込まれる男性」の短編動画は、明示的な説明がないにもかかわらず、「タンクマン」の暗喩として封殺された。
(イギリス大使館が投稿した「波に飲み込まれる男性」の短編動画)
さらに「0.64元」「89元」など、事件を想起させる数字の価格設定まで制限対象となり、商業アカウント管理者の間では「禁止価格一覧」が出回る始末。この“数字検閲”の徹底ぶりは、事件を記念しようとするすべての行為を無力化している。
専門家は、こうした検閲が人の手ではなくAI主導で進むことに強い警鐘を鳴らす。豪ディーキン大学の情報セキュリティ専門家・張耀中博士(Lennon Chang)はABCに対し、「AIによる“予測型審査”が進むと、真実が語られる前に抹消されてしまう」とし、将来の世代が“加工済みの歴史”しか知らずに育つリスクを指摘する。
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