中国のIT業界をけん引する巨大企業アリババと、出前・旅行予約など生活密着型サービスを手がける美団(メイトゥアン)、大手EC企業・京東(ジンドン、JD)が中国のデリバリー市場で激しく競り合っている。
2025年7月、アリババ傘下のタオバオ閃購が500億元(約1兆円)相当の大規模値引きキャンペーンを打ち出し、「15元購入で11元割引」などのクーポンを大量に配布。美団も「0元テイクアウト」や「配達コーヒー2元(約40円)」の超特価で応戦し、京東も遅れながらも100億元(約2,000億円)を投じて追随した。
こうした破格のクーポン乱発に、消費者は「ただ飯」に殺到。7月5日には美団が1日1.2億件(うち飲食が1億件超)、7日にはアリババ系が8000万件超の注文を記録した。だがその裏で、飲食店は注文の急増にパンク寸前、店員は長時間労働に追われ、配達員は心身をすり減らし、極限状態に追い込まれた。

短期的には消費者に恩恵があるとはいえ、企業の消耗戦はすでに投資家に影を落としている。ロンドン証券取引所のデータでは、今年に入り美団の株価は約22%、京東は約10%下落。利益も削られ、美団の1件あたり利益は1.5元から1.0〜1.2元へと減少した。
さらに、三社間の対立は激化し、妨害の応酬や配達員の引き抜き合戦にまで発展。野村證券の分析では、京東は第2四半期に100億元超の赤字を計上した可能性があり、競争が続けば、今後数か月から1年程度で中核の小売事業の利益を食いつぶす恐れがあるとされる。
ゴールドマン・サックスも、今年第2四半期だけで美団・京東・アリババがデリバリー事業に投じた額は250億元(約5,154億円)とし、7月以降の1年間でアリババは410億元(約8,452億円)、京東は260億元(約5,359億円)の赤字を計上し、美団も250億元(約5,154億円)の利益を失うと予測している。

三社は文字通り「赤字覚悟の消耗戦」に突入しており、当局は一度は介入を試みるも効果は薄く、暴走する価格競争は収束の気配を見せていない。
「ただ飯ブーム」の熱が冷めた時、残るのは疲弊した現場と膨れ上がる赤字ばかり。皮肉なことに、今のところ、ほくそ笑んでいるのは、その火に便乗して利益を手にした飲料ブランドだけだ。

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