中秋節(ちゅうしゅうせつ)は、日本の「お月見」にもあたる中国の伝統行事で、家族が再会し、月を眺めながら平穏を願う日である。
だが今年の中国では、その「団らん」が悲鳴に変わった。福建省泉州市(せんしゅうし)で10月6日夜、男が通行人を無差別に襲い、子どもを含む複数人が重軽傷を負った。
SNSに拡散された動画には、泉港区の商業施設「永嘉天地」近くのケンタッキーフライドチキン(KFC)前で、男が刃物を振り回す姿が映っている。倒れたテーブルと椅子、血に染まった床、泣き叫ぶ母親。腕を押さえてうずくまる男性や、抱きかかえられた子どもの姿も確認された。周囲の人々が叫び声を上げ、現場は一時騒然となった。
(現場の様子)
中国共産党当局からの正式な発表はまだない。そんな中、「離婚歴のある男が7人を刺した」とする出所不明の通報文が先に拡散された。文体は公式発表に似ており、事件を早々に「精神疾患による単独犯」と断定している点から、信ぴょう性を疑う声も少なくない。
一方、地元では「犯人は近くの学校に通う生徒の保護者で、不公正な扱いを受けていた」との証言も出ており、社会への報復だったのではないかとの見方が広がっている。
近年、中国では無差別殺人や突発的な凶行が相次ぐなか、中共当局の説明があまりに不透明だった経験から、人々はすでに政府発表を信じなくなっている傾向にある。なかには「句読点ですら信じない」と皮肉る声さえある。
そのため、こうした事件が起こるたびに「また社会報復ではないか」との見方が広がり、噂だけが独り歩きする。もちろん、個人的な恨みによる犯行や単なる事故の可能性も否定はできない。だが、信じられる情報がないからこそ、人々は「最もありそうな絶望」を信じてしまうようだ。
情報は錯綜し、当局が何を発表しても信頼されない。真相はいつも、闇の中に置き去りにされる。
子どもをも狙った無差別の社会報復事件が、中国各地で絶えず起きている。事件が起こるたびに人々は「またか」と深いため息をつき、「この国はいったいどこで道を誤ったのか」と自問せざるを得ない。
そうした凶行が起きるたび、ネットのコメント欄には必ずといっていいほど、こう書き残す人がいる。
「冤有頭債有主,出門左轉是政府(無関係な人を巻き込むな。政府に立ち向かえ。ここを出て左へ曲がれば政府だ)」
その言葉に、誰も異を唱えない。誰もが知っている。それが、共産党統治の実情だと。


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