中国当局は最近、台湾在住の台湾人である政治家や反共系インフルエンサーたちを相次いで懸賞指名手配した。
最初に標的となったのは、台湾民進党の立法委員(日本の国会議員に相当)である沈伯洋(しん・はくよう)氏だった。沈氏は中共による台湾への浸透工作や情報戦を長年研究・警告してきた対中警戒派だ。中国・重慶市公安局は先月、沈氏を「国家を分裂させる犯罪活動」に従事したとして立件し、捜査することを決めたと発表した。
これに対し、台湾で対中政策を担う大陸委員会は、法治文明の最低ラインを超えているとした他、中国には台湾に対していかなる管轄権も持っていないと批判した。

その後(11月13日)中国語圏で著名な反共系配信者である八炯(はっけい/本名:温子渝〈おん・しゆ〉)と閩南狼(みんなんろう/本名:陳柏源〈ちん・はくげん〉)も同様に懸賞指名手配された。

反共系インフルエンサー2人に対する中国側の罪状は「中国共産党を批判した」「外部勢力と結託した」「国家分裂を助長した」など大げさなものばかりで、まるで死刑コースかと思うほど物々しい。だが本人たちの反応は冷静そのもので、「はいはい、また始まったよ〜」と言わんばかりの落ち着きだった。
八炯は11月13日の動画で「私は中共に反対しているだけで、中国を嫌っているわけではない」と語ったうえで、翌14日には中国側が自分につけた金額(最高で約545万円)と同額の懸賞金を設定し、逆に中共の台湾政策の司令塔である2名を指名手配する懸賞通告をSNSに公開した。
その標的となったのが中国人民政治協商会議(政協)のトップで、対台湾プロパガンダの理論設計を担ってきた王滬寧(おう・こねい)と、国務院台湾事務弁公室(国台弁)主任として、台湾統一政策や影響工作を実務で動かしてきた宋濤(そう・とう)である。
八炯は2人について「台湾を傷つけ、反共派を抑えつけてきた」と断じ、中華民国刑法103条の「通敵・国家分裂罪」に当たると主張した。手配画像には八炯のセルフメディア「攝徒日記」のロゴまで入っており、完成度の高さにネット民は大笑いした。

一方の閩南狼は、懸賞を逆利用する形で台湾の派出所に出向き「自首しに来ました。どうぞ逮捕してください」と申し出たが、警察は当然ながら「犯罪事実がないため受理できない」と丁寧に断った。この瞬間、台湾が中国の管轄下ではないことが、平和的かつ分かりやすく証明された。
中国本土のネット民が「台湾は中国の一部」だと信じ込んでいることを踏まえ、閩南狼は「台湾警察が手配犯の私を逮捕しないなんて、本土の人はきっと発狂するだろうね」と皮肉った。

しかし、ここから騒ぎはさらに妙な方向へ転がっていく。
この手配騒ぎがネット民の遊び心に火をつけ、ついには中共党首・習近平を賞金首にした本物そっくりの手配書まで拡散される事態に発展した。習の罪状は「政治の失敗をごまかし、民族主義を操作し、自らの利益を守るため中国に害を与えた」という手厳しい内容で、懸賞金は日本円で約2~4千万円。台湾の身分証番号らしき数字や「泉州市(福建省)公安局」の署名まで添えられ、悪ふざけとは思えないほどの本格仕様だった。

こうして事態は、中共が狙った威嚇とは全く別方向へ転がり、台湾側はユーモアで応戦。ネットでは懸賞騒動だけが一人歩きを続けている。
結局のところ、周囲の感想はこの一言に尽きた。「なんかもう…よく分からない」
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