中国版TikTok「抖音」で、長年タブー扱いされてきた言葉が相次いで表示される異例の現象が起きている。
不可解な死で封じられてきた俳優「于朦朧」の名前だけでなく、「六四(天安門事件)」「趙紫陽(天安門事件で学生への強硬措置に反対し、失脚した当時の最高指導部メンバー)」といった政治的禁句までもが削除されずに残っている。
通常であれば、抖音や小紅書、微博といった中国の大手SNSは、中共の言論統制が最も厳しい場所である。ニュースの検索ワードや投稿はもちろん、一般ユーザーのコメントに至るまで、敏感な内容は「秒で削除」「即アカウント封鎖」が当たり前だった。

それがいま、突然、変わった。
ある動画のコメント欄には、数百人が一斉に「于朦朧」と書き込んだ様子が録画されていた。
数日前まで完全封鎖されていた言葉が、いまは普通に表示される事態に、ネット上には「これはいったい、どういうことだ?」「一時的な緩和なのか、それとも罠なのか」という戸惑いが広がった。
中には「最近の抖音は X 並みに言いたいことが書けるようになっている」という声すらある。

(以前は検閲で表示できなかった「于朦胧」の名前が、次々と投稿され表示されるようになった抖音のコメント欄)
以前なら即座に削除されていたはずの、習近平を名指しせずに皮肉る投稿やコメントでさえ、そのまま残る異例の状態になっている。さらに、検閲や権力にあえて挑む「衝塔(チョンター/もとはゲーム用語で、高確率でやられる無謀な突撃のこと)」と呼ばれる危険な発言までいまは検閲をすり抜けている。
この異常事態に、ユーザーの間では「いったい何が起きているのか」と戸惑いが広がり「政権内部の争いが影響しているのではないか」「いまは自由に話させておいて、後でまとめて取り締まる罠ではないか」と警戒する声も出ている。
ネット上の「妙な緩さ」に疑念が広がる一方で、現実の街頭では当局の過剰な警戒ぶりがむしろ際立っていた。
江西省南昌市では、「12月8日、八一広場に行こう」「封印制度のことを話そう」という数行の軽い投稿に当局が過剰反応し、大学の外出禁止や広場封鎖まで行った。

実際には何も起きなかったため、ネット民からは「大反乱でも起きると早とちりしたのか」「政府だけが勝手に怯えている」と皮肉る声があがった。
今回の過剰反応について「当局は、どんな小さな兆しにも怯えるほど追い詰められている」と指摘する専門家も多い。とくに白紙運動のような、大規模な学生抗議を抑えきれなかった経験が、いまだ強いトラウマとして当局に残っているという見方だ。
また、今回のように大きな動きがない段階で大学を封鎖し、街全体を監視下に置いた対応については、当局が社会の空気の変化に過敏になっている証拠だとする分析もある。外よりも、国内で高まる不満のほうを強く警戒しているという指摘だ。

さらに、費用がかさむ強硬な「維穏(社会安定)」を長期に続けること自体が難しくなっており、ネット上でも検閲の取りこぼしが目立ち始めている。こうした「ほころび」が現実の抗議行動につながり、維穏そのものが立ち行かなくなるおそれも指摘されている。
いっぽう対外的には、中国軍機が日本のF15戦闘機にミサイル発射に使う火器管制レーダーを照射し、これが日本側の「攻撃の意思表示に等しい極めて危険な行為」との強い抗議を招いた。

海外には強硬姿勢を示す一方で、国内のごく軽い投稿には極端に神経質に反応する。外には牙を見せ、内では影に身を縮める。
その姿を見れば、当局が何より恐れているものが何かは明らかだ。
結局のところ、その恐れの矛先は文明社会ではなく、反抗の意思を持った「自分たちの国民」である。


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